らいおんの小ネタ劇場

2004 年 9 月 30 日


第 125 回 : 同盟

「……では、これより第一回美乳同盟対策会議を始めます」

 凛が厳かな口調で会議の開会を告げる。
 ……なんなのでしょうかこの会議名は。もしや美と微を掛けているのですか?
 というか、いつの間にそのような同盟を結んだのだろうか。私には全く身に覚えがない。……まあ、微であることを否定するわけではありませんが。

「ねーねー、リン。なんでわたしまでここにいるの?」
「僭越ながら私も自分がここに呼ばれた理由がわからない……いえ、認めたくないのですが」

 抗議の声を上げたのは私と同じように凛にここに連れてこられた二人――イリヤスフィールとセラの主従です。
 だが凛は二人の抗議に対して全く取り合うつもりはないようだ。

「ふっ……61と75が揃って何を偉そうに。そんな戯言はせめてわたしの77を超えてから言うことね」
「……これは私の身体を生み出した者の責任であり。私のせいではないのですが」
「ふんだ。わたしまだ発展途上だもの。凛みたいに終わってないもの」
「がーーーっ! へこませるわよちびっ娘!」

 無表情ながら額に青筋を立てるセラ。憎まれ口を叩くイリヤスフィールに噛み付いている凛。
 そんな三人を心を空にして、ただ眺めている私。まさかこのようなところで瞑想による精神修養の効果を発揮することになろうとは思わなかった。

 ちなみに――当然ながら、リーゼリットはここにはいない。
 この会議の主旨を考えれば彼女は不倶戴天の敵のようなものですから。

「で……凛、会議の議題はいったいなんなのですか? できるだけ早くしていただければ助かるのですが。このあとシロウと夕飯の買い物に行くのです」
「そんなのもちろん決まってるわ。……如何にして我々の敵である胸に贅肉をつけて誇っている連中を見返すか……これよ」
「素直にどうやって胸を大きくすればいいのか、って言えばいいのに。回りくどいわね」
「イリヤスフィール様。それはわかっていても言わぬが華です。トオサカ様はああしてご自分の小さい胸の如き小さな誇りを守っているのですから」
「……口チャックしないと強引に黙らせるわよ、ムッツリメイド」

 びきびきと音を立てそうな勢いで青筋を迸らせる凛。
 彼女の右腕は既に光を帯び始めていたが、私も含めてその程度を気に留めるような者はここにはいなかった。
 ……とにかく。このままではいつまで経っても話が終わりませんね。……それに、私としても話の内容に興味がいないわけではありませんし。

「凛、議題はわかりましたが、実際問題としてどうするのですか? あなたのことですから何か案があるのでしょう」
「ん、うん。牛乳は半年試しても全く効果なかったし、その……揉ませるってのも相手いないから駄目だし」
「わたし、シロウにだったらいいけどなー」
「あんたにゃまだ十年早いわよ。見た目的に条例違反なんだから」

 ひらひらと手を振り、あざ笑うかのように言う凛に、イリヤスフィールが膨れて眉を怒らせている。見た目相応の可愛らしい仕草だと思う。
 イリヤスフィールは大人の女性を自認しているようですが、あれでは到底背伸びしている少女といった具合だろう。無論、シロウにとっても。

 しかし、凛とイリヤスフィールは相性が良いのか悪いのか。
 この二人が話を始めると、すぐにこうして話が脱線してしまう。魔術師としての二人ならばともかく、そうでない時は互いに強い我が災いするのだ。

「……凛」
「っと、ゴメンゴメン」

 少しだけ力を込めて凛を睨むと、ばつが悪そうに舌を出して素直に謝る。

「ともかく、そんなわけだから次なる手段としてわたしが用意したのがこれよ」

 そう言って、苦笑を浮かべたままの彼女が私たちの前に出したのは――

「……掃除機ですか?」

 ――形状を見て思わずつぶやいてしまったが、それは普段私たちが使っている掃除機にそっくりな機械だった。
 正確に言うのであれば、掃除機の先端に二股に分かれた吸盤をつけたような感じです。

 しかし凛はわたしの問いかけに静かに首を振り、ついでに立てた指も左右に振って否定の意を表した。

「違うわ。これはわたしがなけなしの――そう、本当になけなしのお金をだして通信販売で買ったものよ」
「通信販売ですか。噂には聞いていましたがこれが……」

 昼間のテレビや深夜のテレビでも良く流れていますから、通信販売のことは知っていましたが、実際に利用して買った物を見るのは初めてのことです。なんでもいろいろとおまけがついて、尚且つ普通のお店で買うよりも非常に安く手に入れられるとの事ですが、本当なのだろうか。非常に興味深い。
 しかしそのような詮索は後でもできること。
 通信販売で買おうとお店で買おうと道具は道具。要はいかに使い、望んだ通りに役立つか否かが肝要なのです。

「それで凛、これはいったいどのように――何をしているのです、二人とも」

 いつの間にか背後に回っていたイリヤスフィールとセラの二人が、私の腕を取ってこの身を拘束している。

「ま、馬鹿らしいとは思うけど面白そうだしー」
「このようなベタな道具を売る方も買う方もどうかしているとしか思えませんが、イリヤスフィール様がそう仰るのであれば」
「……む」

 逃れようと身を捩ってはみたが、拘束から脱することができない。かといって無理にすれば二人を傷つけてしまいかねない。力の加減は難しいのです。

「二人とも。いい加減に戯れはやめて離してはいただけないでしょうか?」
「残念だけどそういうわけにはいかないのよ。――というわけで、脱げッ!」
「なっ!?」

 言うが早いか、凛の指先が揺らめいたかと思うと、いつのまにか私の着ているブラウスの前がはだけられ、おまけに下着まで外されていた。
 すなわち――脱がされた。

「ふぅん。相変わらずちっちゃいわねぇ、セイバー」
「こっ、このような辱めを……! 何のつもりですか、凛!」
「何のつもりも何も……これであんたのちっちゃいのが大きくなるか試すに決まってるじゃない」

 途端、凛が持ってきた機械が怪しげな音を立て始める。そして凛は吸盤を手にとって――まさか。

「ま、値切りまくって二束三文で手に入れたものだし、成功すれば儲けものって事で」
「くっ、おのれ……こうなれば仕方ありません。少々の怪我は覚悟していただく!」

 いかに目的のためといえど、このような辱めを受けるわけにはいかない。
 機械の手などに嬲られるなどと……冗談ではありません。

 もはやなりふり構わず、拘束から逃れようと手足に魔力を込めたその時でした。

 ――ふすまが開いて、彼が顔を出したのは。


「おーい、セイバー。もうすぐ出かけ……」


 言いかけたその表情のまま、シロウが凍りついた。
 無論、私も凍りついた。私だけでなく、凛も、イリヤスフィールも、セラも凍りついた。

 そして。

「うわぁぁぁぁっ! 遠坂がセイバーをレイプしようしているーーーっ!?」
「って、誰がそんなことするかばかたれーーーっ!」

 全員が凍りついた次の瞬間、真っ先に解凍したシロウが首をいやいやと振り乱し、叫びながら脱兎の如く逃げ出した。
 あれは、見たくない光景を見てしまった人間の、一種の逃避行動というものでしょうか……。いえ、そんなことよりも、

「……見られてしまった」

 これまでに一度も見られたことがないわけではありませんが……このような形でシロウに見られてしまうとは。

「んー、とりあえず犬にでも噛まれたと思っておけば?」
「いざとなればシロウ様に責任を取っていただけばよろしいのではないかと」

 口々に慰めているのだかなんだかよくわからないが、もちろんそんな言葉で私の心が慰められるはずもない。

「死ねっ! そして記憶を失えっ!」
「死んだら記憶まで墓に持ってくことになるじゃねーか、ばかー!」

 遠くで炸裂しているガンドの着弾音、そして士郎と凛の罵り合いを聞きながら、私は次に顔を合わせたときにシロウに言う言葉を考える。

 しかし、これがシロウで良かった。
 彼以外の殿方に肌を晒してしまったとしたら、今頃凛の代わりに私が相手の殿方の記憶を消しにかかっていたところですから。

 ……シロウならばこそ、見られたとしても……嫌悪感を抱かずに済むのですから。