らいおんの小ネタ劇場

2004 年 8 月 17 日


第 102 回 : 花火大会

 いつかのように浴衣を来て下駄を履き、シロウたちと出かける。
 近くで花火大会が催されるとのことです。私は花火というのは見たことが無いのですが、シロウによるとそれはそれはきれいなものだとのことです。
 だから今日は私とシロウと大河だけでなく、凛と桜の姉妹にイリヤスフィール、ライダーもいます。アーチャーとランサー、それにバーサーカーは先行して場所を確保しているはず。お酒を持っていたから、今頃はすでに飲み始めているかもしれませんね。

 ちなみにじゃんけんで負けたギルガメッシュはお菓子などの買出しに行かせています。我は王だのなんだのと最後まで騒いでいましたが、敗者にかける情けなど、欠片たりとも存在しないのです。ましてや最初の一回目で一人だけチョキを出した王など、何をか況や、です。

「おまたせ、アーチャー。おっ、なかなかいい場所とってるじゃない」
「当然だ、我がマスター。君は昨日から我々に徹夜させておいて、なおそのようなことを言うのかね」
「っつーか、そんな命令に唯々諾々として従っちまうおまえもおまえだけどな」

 缶ビールをあおり、少しだけ顔を赤くしながらアーチャーの肩を叩いているランサー。対するアーチャーはというと、迷惑そうに顔をしかめながら、

「そういう貴様は何故ここにいるのだ」
「ん? そりゃオマエ、決まってるじゃねーか。嬢ちゃんにオマエに付き合ってやってくれと頼まれたからな」
「凛に?」
「ああ。美人の頼みとあっちゃあ、断れねえだろ?」

 言って、ビール飲み干して空き缶を潰して放り投げる。私たちが来る前からずっと飲んでいたのでしょうか。既に転がっている空き缶は五本にも上っているが、きちんと潰されて狙ったように一つ処に集まっているあたりは誉めてやってもいいでしょう。

「……おっ」
「?」

 声を上げたシロウが私の肩を叩いて空を見るように促す。
 見上げると、地面から伸びた糸がするする天に昇って行き――

「……おぉ」

 ――泡が弾けるような小さな音と同時に、空に大輪の華を咲かせた。

 一つ目の華が咲いたのを皮切りに、次から次へと空へ伸びていく光の糸、そして咲き誇る大輪の華々。
 ぱっ、と一瞬の煌きと共に開いた華は、すぐに花びらを散らせて地面へと落ちていく。ぱらぱらと響く音は散り往く華が消えていく音そのもので、寂しさすら感じさせる。だがその分だけ、咲き誇る華の美しさは他に例えようがない。

「綺麗ですね……」
「ああ」

 敷いた茣蓙のシロウの隣に腰を降ろして、言葉少なに空を見上げる。端から見たら今の私はまるで放心したかのような顔をしていると思う。
 だが事実、私は空に咲く華の美しさと、その散華の儚さに完全に心を奪われていた。

 もちろんそれは私だけでなく、他の皆も同様であった。
 凛も桜と一緒に瞬きもせずに空を見上げ、イリヤスフィールは無意識なのか、花火が上がるたびに時折小さく手を叩いたりしている。あのランサーでさえ、口元に微笑を浮かべたまま空を眺めながら、それを肴に杯を傾けていた。
 幾つもの小さな破裂音と共に弾ける幾つもの大輪の華。良く晴れた夜空を彩る光の饗宴はひどく贅沢で、同時にひどく儚い。それ故に、頭上に広がる光景は見る者の心を奪って離さない力を持っていた。

「本当に素晴らしい……そう思いませんか、シロウ」
「…………」
「……シロウ?」

 声を返してこないシロウがふと気になって隣にいる彼を伺う。
 と、何故かばったりとシロウと目が合ってしまい、気がつけば妙に顔が近くにあった。――のではないかと思う。

「あの、シロウ……? どうしたのですか?」
「あ? あ、ああ……いや、なんでもないなんでもない。気にしないでくれセイバー」
「? なら良いのですが」

 正直なところ妙に焦っているようなシロウの態度が気にはなったが、夜空に次の花火が上がった瞬間、私の意識はそちらにひきつけられていた。
 しばし私の横顔を伺っていたシロウの視線も途中から感じなくなる。彼もまた、私と同じように空に咲く華を見ているのだろう。

 瞳の中に映る紅や碧、橙、紫、青の煌びやかな華の色に照らされて、私は全ての花火が終わるまで飽きることなく空を眺めていた。


 そして花火が終わって家に帰る途中のことです。

「……このようなところでなにをしているのですか、ギルガメッシュ」
「……ふっ。王たる我が雑種どもに同じところに混じるなどとできるものではないからな。ここで一人で花火を見ていたのだ」
「ああ、つまり迷子になって皆がどこにいるかわからなくて、仕方なくここで一人で見てたってことか」
「た、たわけ! 勘違いするな雑種が! 王たる我が迷子など……迷子など……!」

 と、言ったところで膝小僧を抱えていたのではな説得力も何もあったものではありませんが。
 王でありすぎるが故に、一人では買い物一つできないということでしょうか? ギルガメッシュにも困ったものです。