らいおんの小ネタ劇場
2004 年 7 月 4 日
第 73 回 : 迷子
私は今、自分を見失っていました。
今自分がどこにいるのかわからず、そしてどこに行けばいいのかもわからず……いや、どこに行けばいいのかはわかっていても、どうすればそこに行けるのかがわからない。
右を見ても左を見ても、前を見ても後ろを見ても、己を知るための導となるものは何もなく――
――端的に言うと、私はただ今迷子になっていました。
考えてみれば新都を一人で歩くという経験はこれが初めてと言ってもいい。これまでにも何度も訪れたことがあったから、すっかり歩き慣れたものと油断したのがまずかった。いつもはシロウや凛が必ず一緒にいたから迷わずに済んだというのに。
己の前後左右に聳え立つ石が、今日は何故かいつもより大きく見える。
道を行く人はたくさんいるのに、その中にシロウの姿はない。
なんということだ……たまにはアルバイトが終わって疲れているだろうシロウを迎えに行こうと思っただけなのにこの仕打ち。
とはいえいつまでも悲嘆にくれて足を止めていても仕方がない。重たい足を引きずるようにして、再び歩き出す。
ああ、シロウ……あなたは今どこにいるのですか?
「はあ……」
ベンチに座って大きくため息をつく。
あれからかれこれ数時間歩き回りましたが、結局シロウは見つからず、私は相も変わらず迷子のままです。
まったく、情けない話です。シロウを迎えに来て、迷子になってしまうなどと。己の分をわきまえない行動を取るからこういうことになったのでしょう。
私はこのまま、家に帰ることもできないのでしょうか。
「……おなか、すきましたね……」
小さく泣き声を上げる腹を押さえて身を縮こませる。
「……セイバー?」
「……え?」
「ああ、やっぱりセイバーだ。やっと見つけた」
私の名を呼ぶ声に顔を上げると。そこには見慣れた人の見慣れた笑顔があって、
「シ、シロウ……? なんでここに?」
「なんでって、セイバーがいつまで経っても帰ってこないからさ。探しに来たに決まってるじゃないか」
「う……」
思わず、彼と目を合わすことすら躊躇われて、俯いて自分の膝を見つめる。
「も、申し訳ありません、シロウ……」
「なんで? セイバーは俺のことを迎えに来てくれたんだろ? ……まあ、そりゃ迷子になっちゃったのはちょっと……だけどさ」
そう言って私に手を差し伸べて、
「俺は嬉しいと思ってるよ。ありがとな、セイバー」
「……はい」
その手を取って私も立ち上がる。
「今度さ、俺のバイト先まで一緒に行こうよ。せっかくだからねこさんにもセイバーのこと紹介したいし、それにそしたら今度はちゃんと来れるだろ」
並んで歩きながらシロウが言う。
「シロウ、それは……」
「ああ……今度はちゃんと迎えに来てくれよな、セイバー」
「……はい。この身に変えましても、マスター」