らいおんの小ネタ劇場

2004 年 6 月 25 日


第 66 回 : 疲労困憊

 今日は午前中から学校、午後になってからはシロウたちより一足早く帰って家事をした。
 そしてその後、今から一時間ほど前ですか。バーサーカーがやってきまして……まあ、そういうことです。

「ふぅ……」

 テーブルの上に突っ伏して、思わずため息を漏らす。さすがに今日は疲れました。こんなに忙しい一日も珍しい。
 胸の奥にどろりとした空気のようなものが居座って身体が重たい。意識しなくても自然にため息が出てきてしまい、少し息苦しさすら感じる。
 開け放った縁側から吹き込んでくる風が心地よい。このまま眠ってしまいそうになるくらいに。あ、まぶたがだんだん……

「ただいまー」
「!」

 と、玄関からシロウの声が聞こえてきて、慌てて飛び起きる。
 軽い足音と共に居間に入ってきたシロウは、どうやら商店街で買い物をしてきたらしい。手にした袋は大きく膨れ上がっていた。

「ただいま、セイバー」
「おっ、おかえりなさい!」
「あ、ああ……なに焦ってるんだ?」
「そ、そのようなことはありません。とにかくシロウ、お茶でも淹れましょうか?」

 それは半ばその場を取り繕うためのごまかしだったのですが、しかし立ち上がろうと腰を浮かしかけたところでシロウに制された。

「いいよ、そんなの。俺がやるからセイバーは座っててくれ」
「え……いや、しかし帰ってきたばかりで疲れているでしょうに、そのようなことはさせられません」
「なに言ってるんだよ、俺なんかよりよっぽどセイバーのほうが疲れてるだろ?」

 そう言ってシロウは私の背後に回り、そこに腰を降ろした。
 いったい……なんでしょうか。
 背中に感じるシロウの体温と彼の気配が何故だかくすぐったく感じる。もちろん……不快な気持ちではないのですが、やはり気にならないわけがない。

「ど、どうしたというのですか? いきなり……」
「……朝から学校で授業やって、家に帰ったら掃除と洗濯、それからバーサーカーと散歩、だろ?」
「な、授業と家事はともかく、何故散歩のことまでシロウが……」
「いやほら、俺、商店街で買い物してきたし。バーサーカーはあの通り目立つだろ」
「……それもそうですね」

 確かにあの巨体で商店街を闊歩し、肩に気分悪そうな私を乗せていて誰の目にもつかないほうがおかしい。それどころか、商店街の人たちの記憶に強く刻まれたはずだ。
 ……で、シロウは噂話が好きな商店街の住人たちから私の話を聞いたのですね。

「だからさ、今日はもうセイバー、ゆっくりしててくれよ」
「は、はい。それではその言葉に甘えさせてもらいます」
「ああ、そうしてくれ。なんだったら肩揉みくらいはするぞ、俺」
「……え?」

 思ってもみないことを言われた。
 しかし、その言葉に少し混乱している私が止める前にシロウの手は私の肩に伸び、肩をほぐしていた。

「あ、あの……シロウ?」
「ずっと教壇で黒板に向かうのも、家で洗濯物干すのも肩凝るだろ? にしてもセイバーって、やっぱり肩細いな」
「そ、そうでしょうか……」
「そうですよ。やっぱ女の子だな」

 シロウはそう言いながら笑うが、私のほうはといえばそれどころではなく。彼が正面にいてくれなくて、本当に良かったと思う。

 それにしてもシロウの手は本当に大きい。
 もちろん、私と比べてのことですし、彼は学校のクラスの中でも小柄だから男性の中でもそう大きくないほうなのだろう。でも、そういうことではない。

「……シロウ」
「ん? ああ、すまん。少し痛かったか?」
「いえ、違います。むしろ……とても気持ちがいい」

 たとえこれが誰であっても、私にとってシロウに敵う者はいるまいと――そういうことなのです。