らいおんの小ネタ劇場
2004 年 6 月 20 日
第 61 回 : 筒抜け
突然、お風呂が壊れてしまいました。
詳しいことは良くわかりませんが、湯沸かし器とやらが故障してしまったらしく、お湯が出なくなってしまったのです。
さすがのシロウもお風呂の修理はできないらしく、修理を頼んだのですが明日にならないと修理できないとのことでして、今日は皆で銭湯に行くことになったのでした。
「ふぅ……」
家のお風呂よりもずっと広い湯船に浸かり、そのあまりの心地よさに思わずため息が漏れる。
以前の温泉ほどではありませんが、自由に手足を伸ばせるというのはそれだけでとても心地よい。
「これならばたとえお風呂が壊れていなくても、時々は利用したいものですね」
「そうねぇ……どうかーん」
隣に浸かった凛も緩みきった表情で口元までお湯に浸かり、天井を見上げていた。
「ところで、セイバーちゃん」
「はい? なんですか大河」
私も凛と同じように気を緩めて天井を見上げていると、反対側に身を沈めていた大河がこちらに身を寄せてくる。
……はて。目が笑っている。
なんでしょう、嫌な予感がするのですが。
だが大河はそんな私の内心など知った風もなく、口元を猫のように歪めて肩に手を回してきた。
「あれからどうかね? あちらのほうは」
「あちら? あちらのほうとはなんでしょうか」
にやにやとしている大河の表情に不吉なものを感じ、身を引きながらも首を傾げる。
あちらと言われてもこちらにはなんの思い当たる節もないのだから仕方ない。が、大河はますます楽しげに目を細めて、
「あちらといえばアレに決まってるじゃない。ねぇ、遠坂さん?」
「そうですね藤村先生……わたしも、とっても気になるところですし」
そう言って凛に意味ありげな視線をやると、彼女まで悪魔じみた表情に変貌し、大河が回しているのとは逆の肩に手を回してきた。
……これは良くない。
研ぎ澄まされたわたしの直感が告げている。逃げろと。この場にいては良くない目に合うと激しく私に伝えてきていた。
しかし、私が直感に従って湯船から上がろうとするその前に、
「風呂場においてアレと言えば決まっているでしょう!?」
「チチよ! あんたの乳はちったあ成長したのか確かめさせなさい!」
「なっ!? 何をするのですか二人とも! や、やめっ……!」
言うが早いか、大河と凛の手が私の胸元に伸びて、容赦なく触れてきた。
逃げようにも二人の腕がしっかりと肩に回って私を拘束し、逃げることすらできない。それを良いことに二人の手がさんざんに私の胸を弄ぶ。
「むむっ! これはどうですか遠坂さん!?」
「間違いありませんわ藤村先生。この子、ちっとも成長してません。……だがしかし!」
「あっ、り、凛! やめてください、やめっ、やめて。……んんッ!」
「この感度、この感触! 小ぶり、というかぺったんこながらも相変わらず素晴らしいわね」
「あっ、ちょッ……だめですっ! ど、どこをさわっ……あぁッ!」
悲鳴を上げて逃げようとするたびにますます二人は調子に乗って私に触れてくる。
「せ、セイバーちゃんってば可愛すぎるよぅ!」
「でしょう? ああ、でもやりすぎると癖になるから気をつけてくださいね」
「こ、このようなことを癖にしないでくださいッ! あ、や、やめ――助けてくださいシロウーーーっ!!」
そうして必要以上に上気する頬を押さえながら銭湯から上がって外に出ると、
「お、おまえら……風呂でなにやってるんだよ、もう……」
そこには私以上に顔を真っ赤にしたシロウが待っていました。
ああ、そういえば男湯と女湯の仕切りは上のほうが空いていたような。……つまり私たちの声は全てシロウまで筒抜けだったということで。
「…………」
「…………」
結局そのあとはシロウと顔を合わせることすらできず――
もう二度とあの二人と銭湯になど行くものかと、私は心に強く決めたのでした。