らいおんの小ネタ劇場
2004 年 6 月 3 日
第 48 回 : 水溜り
昨日の夜から先ほどまで、深山市は大雨に見舞われた。
今はすっかり雨もやみ、空の向こうには美しい虹が橋をかけていて、雲間から顔を出した太陽は橙色の光を夕暮れ時の街に投げかけている。
だが雨の痕はいまだ家の庭に色濃く残り、そこかしこに大きな水溜りが幾つもできていた。
「……」
その水溜りの中でも一際大きなそれの前にしゃがみこみ、私はじっと考え事をしていた。
――広さは言うまでもなく、深さも十分。これならばきっと問題ないでしょう。
そうして、私はさっきふと思い立ったことを実行に移すことにした。
「……なにやってんだ、セイバー?」
「はっ! シ、シロウ!?」
突然かけられた声に振り返ると、そこには人の足があり、辿って見上げると訝しげな表情でこちらを見下ろしているシロウの顔があった。
「お、おかえりなさいシロウ! い、いつのまに帰ったのですか!?」
「いや、ちょうど今なんだけどさ、セイバー……」
「ずいぶんと楽しそうなことしてるわねぇ……」
にやにやと人の悪い笑みを浮かべてこちらを見ている凛と目が合う。
ッ! いけない、自分の意思とは無関係に頬が紅潮して熱くなってきた。
「い、いえ、これはですね、その……なんと言いますか、ちょっとした知的好奇心と言うのでしょうか。どうなるのかなっ、と思っただけでして、別に他意はないのです。ほ、本当にそれだけですっ!」
「あー、別にそんなに必死になって弁解しなくてもいいんだぞ、セイバー」
「そうよー。楽しそうじゃない、それ」
「で、ですからっ!」
二人が見やった先には庭にできた中でも最大の規模を誇る水溜り――
――と、その水面に浮かぶ幾つもの紙でできた小さな船。
居間にあった画用紙で作ったものですが、これがことの他頑丈でして……ではなく!
「へぇ、良くできてるじゃないこの船。でもまさかセイバーがこんな可愛らしい遊びをするとは思ってもみなかったけど」
「ほんとだ……それに何気に、隣の水溜りに水路まで作ってたんだな。こういう遊び、子供の頃良くやったけど、結構本格的だな、セイバー」
「う、うぅ……」
反論の余地もなく次々に言われて、もはや私にできることなど俯いて二人の視線から逃れることだけしかなく。
……いいではないですか。少しやってみたかっただけなのです。
結局そのあと、開き直ってシロウと二人、船を作って水溜りに浮かべて遊んだのはまた別の話。
まるで失った童心を取り戻したかのようで、その……とても楽しかった。