らいおんの小ネタ劇場

2004 年 6 月 1 日


第 46 回 : 蟻の巣でコロリ

「……おや」

 縁側でお茶を飲んでいる私の足元に黒いかたまりが群れになって列を作っていた。
 その黒い列は庭に少し零れているお茶菓子の欠片に群がって、どうやらそれを運んでいるようだ。

「ふむ。蟻というのはたいしたものですね。自分たちの体の何倍もの大きさの物を運ぼうとするとは」

 つぶやいて感心しながら、ふと、その列がいったいどこまで繋がっているのか気になってきた。
 ならば話は早い。気になるなら追いかけてみるまでです。

 追いかけて追いかけて、蟻の列は庭の真ん中を横切って何メートルもその列を繋げていた。
 いったいどこからこれだけの数の蟻が出てきたのか、こうも迷わずに列を作れるのは何故か。とても不思議に思う。
 いつしか私の目は彼らの行き着く先にのみ向けられていた。身を屈めて蟻の列を見つめて、他のものなど目に入らないくらいに没頭してしまっていた。


 そして辿り着いた彼らの旅の終着点。

「ほう、ここがこの蟻たちの城、というわけですね」

 地面に開いた小さな穴に、列を成していた蟻たちが次々と入って行き、そして次々と穴から蟻たちが出てきて再び列を成していく。
 こうして何匹も何匹もが繰り返し少しずつ、あの落ちたお茶菓子の欠片を拾ってこの巣に運んでいるというのか。

「……素晴らしいですね」

 彼らほどの統率を持った集団が人となり兵となれば、間違いなく最強の軍団として形成されるでしょう。
 このように小さく、弱い生き物であっても侮ることなど決してできない。また一つのことを学び、私は屈んでいた身を起こして頭をあげて――

 がつんッ

 ――と、何故かこんな低いところに張り出していた木の枝に、思い切り頭を打ち付けていた。

「不覚。一つのことに没頭するあまり、周囲への注意が散漫になるとは。この身はやはりまだまだ未熟……」

 ずきずきと痛む頭を抑えながら、私はまた一つ己に自省を科した。
 ……あ、たんこぶになってます。