らいおんの小ネタ劇場
2004 年 5 月 26 日
第 42 回 : 肩車
縁側から外を覗くと、シロウとイリヤスフィールが庭で遊んでいた。
あれはそう……確かバトミントンというスポーツです。
ふわふわと軽そうに、空に弧を描いているシャトルをイリヤスフィールが必死に追いかけてシロウに打ち返す。対するシロウはというと、余裕の表情で更にイリヤスフィールに打ち返し、彼女はまたそれを追いかける。
なんというか、大人と子供の勝負ですね。まあ、まさにその通りなのですが。
ですが二人とも楽しそうですし、まるで兄妹が戯れているようで見ていて微笑ましい。
ところで、何故イリヤスフィールは体操服とぶるまぁをはいているのでしょうか。運動に適した格好であるといえば確かにその通りなのですが。
まあ、どうでもいいことですね。二人が楽しんでいるというのであれば、それで良いのですから。
そう思い、微笑ましい気持ちと共に私は道場へと向かう。これから私は、日課の瞑想の時間なのです。
一時間経過――
瞑想を終えて道場から出ると、庭にはぽつんとラケットのみが取り残されてシロウとイリヤスフィールの姿がなかった。
「もう終わったのでしょうか?」
だがそれではラケットだけがそこに残されている理由にはならない。シロウがいる以上、道具だけを出しっぱなしにするなどというだらしのないことは絶対にありえませんから。
と、思っていたら、
「シロウー、もっと右、右−」
「こ、こっちかイリヤ?」
「あん、ちょっと行き過ぎ! 今度はちょっと左よ」
と、なにやら二人の声が聞こえてきた。
いったいなにをやっているのだろう。そう思い、声がしてきたほうを覗くと、庭でもひときわ背の高い木の根元にシロウが立ち、イリヤスフィールがシロウの肩に跨って空に向けて伸びている枝に、その小さな手のひらを伸ばしていた。
よく見れば枝には二人が打ち合っていたバトミントンのシャトルが引っかかっている。
なるほど、あれが木に引っかかってしまったので取ろうとしているのですね。
イリヤスフィールは細い足でシロウの顔を挟み、ふらふらと揺れる自分の身体を支え、シロウもまた彼女の足首をつかんで支えながら左右に動いたり肩を伸ばしたりして、なんとかシャトルを取ろうと必死になっている。
「んー、シロウもうちょっと! もうちょっとで届くの!」
「こ、こうかイリヤ?」
「んッ……そう、もう少し……あっ、ん、もう少し頭を……」
「こ、こっちか!?」
必死に手を伸ばしているイリヤスフィールが一瞬バランスを崩し、ぎゅっとシロウの頭にしがみつく。
すると当然、彼女の太ももがシロウの顔により強く押し付けられるわけでして。
と、いうか――
「もう、ちょっと……あと少し」
「こ、ここか? ここなら届くのか?」
「そう、上手よシロウ――あんッ、もうちょっとだったのに……」
――この二人、妙に雰囲気が怪しいのですが、気のせいでしょうか……?