らいおんの小ネタ劇場

2004 年 5 月 24 日


第 40 回 : この子どこの子

「シロウ、子供ができたのです」

 朝食の席、昨日からずっと言おう言おうと思っていたそのことをシロウたちに報告すると、食卓を囲んでいる一同が表情を凍りつかせて固まった。
 驚くのも無理はありません。かくいう私もその事実を知ったときは衝撃のあまり食べていたお饅頭を取り落としてしまいましたから。

「あ、あのね、セイバーちゃん、ちょっと聞きたいんだけど……」
「はい、なんでしょうか大河」
「子供ができたって……まさか、まさかとは思うけど。お姉ちゃん信じられない、いや、むしろ信じたくないんだけど」
「はあ……」

 はて、信じたくないとはいったいどういうことなのだろうか。本来なら喜び、祝福しこそすれ、新しい命の誕生を厭うことなどあってはならないはず。まして大河はそのように狭量な人物ではないはずなのに。
 だが大河は、いえ、大河だけでなく、彼女の次の言葉を待つ凛や桜、そして何故かいるライダーまでもが息を呑んで緊張を双眸に湛えていた。
 ……と、いうか、シロウは何故そんなに顔色を青くして首を左右に振っているのでしょう?

「あのさ、セイバーちゃん」
「はい」
「子供ができたって……もしかして……妊娠、したとか? ううん! そ、そんなはずないわよね、せんせー早とちりしちゃった!」
「いえ、妊娠どころか既に生まれていますが」
「ウマーーー!?」

 途端、雄叫びを上げる大河。

「それも六人もです。子沢山というのは良いことですね」
「六つ子! それじゃあんたら二人と私を入れたら野球チームができちゃうじゃない!」
「待ってください先生、論点はそこじゃありません」

 はあ……よくわかりませんけど、とりあえず野球はできないと思うのですが。
 ともあれ論より証拠です。口伝えより実際に見ていただいたほうが早いでしょう。

「待っていてください、今子供たちを連れてきますから」

 そうして居間を出て行くとき、視界の端に詰め寄られているシロウの姿が見えたのですが……はて、本当にどうしたというのでしょうか。


「見てください大河、ほら可愛い子供たちで――」

 そうして私が子供たちを連れて居間に戻ると、

「――し、シロウッ!?」

 ライダーの釘剣の鎖に縛られ高々と吊るされたシロウが、凛と桜に足の裏をガチョウの羽でくすぐられて激しく身悶えているという――
 そう、まさしく拷問の真っ最中というとんでもない事態に陥っていたのでした。

「な、なにをしているのですかーーーッ!?」

 即座に風王結界を右手に現界させてシロウを縛めている鎖を叩き斬る。ちなみに左手には子供たちが眠っているダンボールを持っているのですが、このような状況でもまるで目を覚ます様子もなく眠っている辺り肝が太い。まさに獅子の仔と呼ぶに相応しい。
 と、今はそれどころではなく、腕の中でぐったりとしているシロウをこのような目に合わせた者たちへの尋問が先だ。

「いったいシロウに何をするのですか! 我がマスターをこのような目に合わすとは、事と次第によってはこちらにも考えがある!」
「だ、だってー。セイバーちゃん、子供生まれちゃったんでしょー」
「それがいったいどうしたというのです!」

 うーうー唸りながら涙目で両手を振り回す大河だが容赦するつもりはない。この子らが生まれたことでどうしてシロウが拷問など受けねばらないのか。
 と、ライダーが私の手元のダンボールを覗き、そしてしばし、じっと中の子らを見つめる。

「……セイバー、一つ伺いたいのですが」
「なんだ」
「貴女が先ほどから言っている子供というのは」

 ダンボールの中に指を差し、

「この子猫たちのことですか?」
「もちろんだ。決まっているではないですか。この子らは、この辺り一帯を治める誇り高き猫の子供たちです」
「……ほう。ボス猫の子供たちですか」

 ……む。どうしたというのだろうか。騒いでいた大河も、目つきも鋭くこちらを睨んでいた凛と桜も、黙り込んで冷ややかな目線になっている。
 というかシロウ、何故あなたまでそんなどんよりとした目で私を見るのですか?

 目を覚ました子猫が一匹、

「にゃぁ」

 と鳴いて自分を差しているライダーの指にかじりつく。

「……」
「……」
「……」
「……」
「……」

 なんというか――先ほどまでとは立場が逆転しているような気がするのは……気のせいでしょうか。
 はて、私は何か間違ったことでも言ったのだろうか……?