らいおんの小ネタ劇場

2004 年 5 月 16 日


第 35 回 : 女教師

 私がお風呂から上がって居間に戻ると、シロウと大河が向き合ってノートを開いていた。

「なにをやっているのですか?」
「ああ、藤ねえに勉強を見てもらってるんだよ」
「勉強を? ああそういえば、大河は英語の教師でしたね」
「そうだよー、私はこれでも憧れの女教師なんだから」

 むふー、と誇らしげに胸を反らしながら言う大河に、シロウはこっそりと白い視線を向けている。
 気持ちはわからないでもありませんが、大河はこれで責任感が強い人ですし、人を教え導く者として適任でしょう。

 まあ……普段の彼女を見ているとときどきそのことを忘れそうにはなるのですが。

「ところでシロウはどこがわからないのですか?」
「いや、ここなんだけどな……」

 ふむ、これですか。私にとってはどうということのない普通の言葉なのですが、日本という国で育ったシロウにとっては知らない言葉なのでしょう。

「あっ、だめだよセイバーちゃん。これはシロウの宿題なんだから、シロウが自分の力で解かなくちゃだめなの」
「わかっています、大河。そうですね、シロウ?」
「あ、ああ。もちろんだぞセイバー。ずるはいけないよな……やっぱり」

 ……まったく。口ではそう言っても、目は私から聞きだしたかったとい本音が見え隠れしていますよ、シロウ。
 とは言っても……私も大河に止められなかったら教えてしまっていたでしょうから同罪なのですが。

「そういえばセイバーちゃんってイギリスの人なんだよね」
「ええ、その通りです。生まれも育ちも英国ですが」
「そのわりには日本語上手いよね。どこでならったの?」
「幼いころから日本には興味がありましたから。知り合いの日本の方から習っていたのです」

 シロウが難しい顔をしているその横で、大河と他愛もない話に耽る。
 もっとも私が日本語を使えるのは学んだからではなく、聖杯から流れてくる情報を受け取ったからなのですが。
 そういう意味では私が日本語を使えるのはこれ以上ないほどのずるということになりますね。

 しかしもちろん大河にはそんな真実を告げることなどできるはずはないのです。

「ふぅん……どーりでセイバーちゃん、日本語上手いわけだー。しかもすっごく勉強好きなんだね」
「いえ、まあ。好きというほどではないのですけれど」

 隣りで唸っているシロウを横目に見ながら、大河の質問に適当に答える。

「それじゃあ、セイバーちゃんって日本語は全然問題ないんだね」

 だからそんな大河のつぶやきも、さして気に留めていなかったのですが――


 ――何故、翌日になって私はこんなところにいるのでしょうか。

「はいはい、それじゃ今日から新しく来てくれた私の授業の助手だからみんな仲良くしてあげてねー」
「あの……セイバーです。大河、どうして私はこんなところにいるのでしょうか」
「だってセイバーちゃん、英語も日本語もぺらぺらじゃない」

 よく意味がわからないのですが――シロウ、そんなところで机に突っ伏してないで助けてください。
 凛も、ため息なんてついてないで、大河を止めてくれませんか?