らいおんの小ネタ劇場

2004 年 5 月 12 日


第 32 回 : ねこじゃらし

 シロウにとって私との打ち合いや凛の魔術講義が日課の鍛錬であるなら、私にとってはこの瞑想が日課の鍛錬です。

 いついかなるときでも平常心を保ち、どのような不利な状況でも冷静さを失わないためにも、こうして精神の修養を積むのは大切なことです。

 もっとも私は剣の技に比べると、精神面はまだまだ未熟です。
 ちょっとしたことで心を乱し、我を失うことが、最近特に多い。これではいざというときにマスターを守ることはできない。

 ――まあ、主に私の心を乱すのがそのマスター自身なのですが。

 そういうわけで私は今日も普段は凛と静まり返っている道場で、いつものように身を正し瞑想している。
 の、ですが――

「……」
「にー」

「……」
「にぃ〜」

「……」
「にー、にー」

「――大河」
「ん? なに、セイバーちゃん」
「あなたは何をやっているのですか、何を」
「あっ! もう、セイバーちゃんってば瞑想してるのに、目を開いたりしたらだめじゃない!」

 無理を言わないでください、大河。瞑想しているとはいえ、目の前でそんなことをされていたら気にならないわけありません。

「にっ!」

 と、思っていたら大河の抱えている子猫が、また私の髪に手を飛ばす。
 彼女の小さな手に弾かれて揺れる私の髪。

「……」
「おもちゃか何かと思ってるのかしらねー」

 ……確かに。
 確かに私のこの髪は、ひと房飛び出していて猫にとっては非常に興味深いものだとは思います。
 昔に預かっていたあの子も、彼女のように私の髪でよく遊んでいたものですが――

「にっ! にー、にっ」
「おおっ、おおっ、すごいよセイバーちゃん! 猫パンチのラッシュだ!」

 ――しかし、私の髪はそんなにねこじゃらしにそっくりなのだろうか。

 もっともそんな疑問を抱いたところで……こうして子猫に弄られているそのことが、何よりも雄弁に事実を語っているのでしょうが。