らいおんの小ネタ劇場
2004 年 5 月 8 日
第 29 回 : 大型連休 温泉旅行・帰還編
温泉に入り、覗かれ、卓球をして混浴した初めての旅行は終わり、私たちは数日振りに我が家に帰ってきていた。
宗一郎とメディアとは既に別れを告げ、彼らは柳洞寺へと帰っていった。
ところでここのところ、あちらに行ってからずっとメディアの肌の艶がやけに輝いていたような気がするのですが――いったい何があったのでしょう。逆に宗一郎が妙に疲れ気味だったことと関係が?
まあ、あの夫婦のことですし、細かいことは気にしても意味のないことなのでしょう。
「んー、それにしても少し離れてただけだっていうのに、ずいぶんと久しぶりな気がするわねー、家に帰ってくるのも」
「それには同意しますが凛、ここはあなたの家ではないのですが」
「そうよー、遠坂さんってばここのところずっと入り浸ってるけど、ここは私と士郎の家なんだから」
「いえ、あなたの家もここではありません、大河」
正確にはここは私とシロウの家なのであって、他の人たちはよく出入りする客という立場である。
もっとも既に家に部屋まで持っている人間を客と呼べるかどうかは微妙なところなのですが、私としてはここは譲れない線なのです。
「ま、お互い久しぶりに帰ってきたんだしさ、とりあえずみんなうちでゆっくりしてけよ。なんだったら晩メシ食ってくか?」
「では、士郎。私はこの車を置いたらまた戻ってきます」
「ああ、そうしてくれ。待ってるからさ、ライダー」
「はい。ありがとう、士郎」
にこりと笑って手を振ると、ライダーは再び車を運転して走っていった。
考えてみれば今回の旅行、彼女にはずいぶんと世話になった。行きと帰りの長い時間車を運転するのはいかにライダーのサーヴァントといえど疲労を感じないはずがない。
「さてイリヤ、今日は何が食いたい? リクエストに答えてやるぞ」
「え! ホント?」
「ぶーぶー、士郎ってばイリヤちゃんばっかりずるいじゃないのよぅ。たまにはおねえちゃんの言うことだって聞いてくれたっていいじゃない」
「それじゃ藤村先生のわがままはわたしが聞いてあげます。何が食べたいですか?」
「わーい! だから桜ちゃん大好きだよぅ」
旅行から帰ってきた途端、この調子でもういつもの私たちに戻っている。
たまの旅行も良いものですが……結局一番落ち着けるのは住み慣れた我が家といったところなのでしょうか。
かく言う私も、そろそろシロウの作ってくれる食事が恋しい。
旅館でいただいた食事も大変美味しかったのですが、それでも私にとってはやはりシロウの料理が一番のようだ。
談笑しながらただいまを言って玄関に上がる。
本当に、ほんの少ししか離れていなかったのに懐かしい我が家。
そして私は最後に玄関に上がってきたシロウを振り返り、
「おかえりなさい、シロウ」
笑顔で帰ってきた彼を出迎えた。
「ねえところでさ、アーチャーとかランサーとか、ギルガメッシュとかはどうしたのよ」
『あ』
そういえば彼らのことをすっかり忘れていました。
と、居間から聞こえてくるテレビの音。
「ねえねえ! もしかしてこれのことじゃない?」
『本日未明、温泉街として有名な観光地である○○町で、身元不明の男性三人の……』
ええ、間違いありません。きっとこれです。
目元に黒い線が入ってますが誰がどう見たってあの三人です。あんな赤かったり青かったり金ぴかだったりするのがこの世に他にいるわけがない。
「……なあ、やっぱり引き取りに行かなきゃいけないのかな、これ」
「……放っておいても自力で帰ってくるんじゃないでしょうか。腐っても英雄ですから」
こちらを見つめるシロウの視線から顔を背けて答える。
もちろん私たちには何の罪も疚しいところもないのですが――
『そのうちの一人は「我は王であるぞ雑種ども」と訳のわからないことを繰り返しており警察は……』
――まあ、迷惑をかける地元の警察の方々には少々申し訳ないというかなんと言うか。
「まあ、とりあえずあの金ぴかには帰ってきたらもう一度、今の世の中の常識ってやつを再教育してやる必要があるわね……」
同感です、凛。
今度こそ忘れられないよう、その脳裏に叩き込んでやりましょう。