らいおんの小ネタ劇場

2004 年 5 月 6 日


第 26 回 : 大型連休 温泉旅行・Interlude 哀戦士変

 そうしてその男たちはついにアヴァロンへと辿り着いた。
 と、言うよりむしろ最初から辿り着いていたと言うのが正しいのであろうか。

 ランサー、アーチャー、ギルガメッシュの三馬鹿英雄、なんと露天風呂に当然のように鎮座している岩に擬態して、女性陣が来る前に忍び込んでいたのである。
 この作戦の発起人であるアーチャー曰く、

『そもそもこそこそと這いずり回るようにして覗こうというのが不自然なのだ。ならば最初からそこにあるものとして堂々としていればいいのだ。天地一体、自然の存在として覗くならば、一体誰が見咎めようというのだ』

 とのこと。
 言ってることは立派なようだが、実際のところは犯罪者の発言である。


 それはさておき、彼らの作戦は物の見事に嵌った。
 セイバーをはじめとする女性陣は、彼らの存在に気づかずして衣服を脱ぎ、今も犯罪者たちの目の前でその肌を晒し、玉の肌を上気させているのである。

 が。

『み、見えん!』

 三馬鹿、魂の叫び。
 幸いなことに、彼らが擬態している岩の周囲に湯煙がもうもうと立ち込めて視界が完全に遮られていたのである。アーチャーの鷹の目を以ってしても覗けぬほどにその壁は厚く、他の二人がどうであるかは言わずもがな。
 しかもその湯煙が岩の中にまで入り込んできて、三人とも別の意味でハァハァとなっていた。

 だがしかし、この程度であきらめるようならそもそも最初から女湯に忍び込むなんて大胆すぎる作戦など採りはしない。
 犯罪者予備軍、っていうかそのものの三人ではあったが、いずれも幾たびの死線を潜り抜けた英雄であることに間違いはない。事ここに至って命の覚悟をしていない者などいなかったのだ。

 ――故に、その身体はきっとエロでできていた。

 自慢にも何にもなりゃしないが。

『ふむ、やはりここはうって出るしかあるまい』
『……だな。はっ、面白くなってきやがった』
『ま、所詮は雑種の考えた策ではこの程度が限界ではあるか』

 何を交わさずとも通じ合うエロとエロのシンパシー。
 というわけで各自、岩に擬態したまま匍匐前進開始。目指すところは全て遠き理想郷。

 言い換えると女体天国。まさにヘヴンだ。男の子なら誰しもが一度は夢見るパラダイスである。

 だがしかし、これは致命的な失態であった。
 彼らが女性陣に発見されずにいたその理由、アーチャー曰くところの天地一体の境地を自ら捨て去ってしまったのだ。
 この世のどこに自ら動く岩などあろうか。いや、あるはずがない。

 そんなあるはずのないものの気配に、彼女が気づかないわけもまたないのだ。
 そう、直感スキル:Aを持つ剣の騎士が。


 Interlude Out


「……」

 異様な気配と何かの這いずるような音に振り返ってみれば、そこにはこちらに向かって動いている岩が三つありました。
 正直……落ち込みます。たとえ一時とはいえ、このような輩の存在に気づかず、ましてや接近を許してしまうとは。平穏な日常に溺れ、浮かれた我が身の不徳とするところです。

 ならばその汚名を雪ぐのも自らの手で。

「ん? セイバーちゃんどうしたの?」
「あー、大河はいいの。ホラホラ、あっちむいてほーい」
「む、イリヤちゃん。この私と勝負する気かにゃ? だったら今日の晩ゴハンのおかずを賭けて勝負なのだー」

 イリヤスフィールが大河の相手をしている間に風王結界を限界し、無言で振り下ろす。

「ぬ、ぬおおっ!?」

 ち、外しましたか。英雄といえど元は人間。傷つけば赤い血が流れるはずなのですが……
 ま、いいでしょう。いつかは当たるはずですし。
 そういえばどこかでこれに似た玩具を見たことがあるような気がしますね。確か大河が持ってきた玩具だったと思うのですが……そうそう、確か黒ひげ危機いっぱつでしたか。

「ちょっ、ま、まてっ、セイッ、セイバー! うをっ!? か、かすったではないか!」
「おかしいですね。私はこの岩に試し切りをしているだけなのですが。まあ、岩が語る口を持つはずもありませんし、問答無用ですね」
「お、おのれっ、我は王……あっ、まって、ごめ、ごめんなさい! イタッ、イタいではないかっ!」

 見れば向こうでも凛がガンドを撃ち込んだり、桜が岩の中に蟲を詰め込んだりしている。
 その中身は見なくても大体わかりますが、あれがシロウが歩む道の果てだとするならば、なんとも情けない話だ。

 やはりシロウにはアーチャーと同じ道を歩ませてはいけない。
 私がその傍にいて、必ず正しい方向へと導かねばと、そう強く想う。


 まあ、それはそれとして。
 今はこの犯罪者たちに制裁を。女性の肌を盗み見ようなどと、その罪は死ですら生温いのです。



第 27 回 : 大型連休 温泉旅行・混浴編―寸止め

「ふぅ……」

 温泉の湯に一人浸かり、思わず口から吐息が零れる。
 食事の後に全員で行った――と言ってもあの三人はいなかったのですが――卓球で汗をかいてしまったので、もう一度温泉にやってきたのですが、こうして夜空を空に眺めがらというのも、また格別なものですね。

 ここは空気に淀みが一切なく、澄み渡っているので深山町よりもずっと空に星が多い。
 まるで見上げている私を吸い込んでしまいそうな、夜空に渦を巻く色とりどりの星々。
 夕刻に入ったのとはまた別の場所にあった露天風呂ですが、この素晴らしい眺めと上気した肌を撫でていく風の心地よさは少しも変わりがない。

「それにしても……変われば変わるものですね……」

 身を肩まで湯に沈めながらつぶやく。
 変われば変わる……それはキャスターのこと。先ほどの卓球大会、優勝したのは我々サーヴァントを抑えて宗一郎だったのだが、そのときの彼女の喜びようは、かつての彼女の面影もないものでした。

『宗一郎様……すてきです……』

 などと、頬を赤く染めて瞳を潤ませ夫を見上げる様はまさに恋する娘そのもので、凛などはがっくりと膝を突いて「負けた……」とつぶやいてさえいました。
 あの凛に敗北を自覚させるなどただ事ではない。
 しかし、あれがキャス……いえ、メディアの本来の姿なのでしょう。
 生前の彼女は愛した男に悉く裏切られ、魔女として人々に祭り上げられた悲劇の女性。元々は心清らかなる少女であったと聞いています。

 であるならば、今の彼女が本来の彼女を取り戻すのも道理。
 宗一郎は無口ではあるが誠実な男性だ。決してメディアを裏切らぬと断言できる。

「死してサーヴァントとなった後に幸せを掴むこともできるとは……羨ましいな」

 心底からそう思う。
 最良の伴侶を得て、幸せをその手にした彼女が。
 叶うならば自分も――そう思わないでもないが、同時にひどくおこがましいことに思う気持ちも僅かだが残っている。

 どれだけ今の生活に満足を得ていても、やはり私が本来いるべきあの時間、あの場所のことを拭うことはできない。
 それは私が私でいる限り、決して忘れてはいけないことなのだから。


 と、背後で戸が開く音がした。
 誰が入ってきたのだろうかと振り返ると――

「シ、シロウ!?」
「セイバー!?」

 そこには腰にタオルを巻きつけたシロウが立っていた。

「セ、セイバー! こ、こっちは男湯だぞ!? なんでおまえがいるんだよ!」
「それはこちらのセリフです! こちらは女湯です!」

 男湯? ですが私は間違いなく女湯に入ったはずなのに……しかしシロウが嘘をつくなどとも思えない。
 私たち二人が二人とも本当のことを言っているとしたら、これはいったいどういうことなのでしょうか。

「と、とにかくごめん! 俺、すぐに出るからセイバーはごゆっくり!」

 そのようなことを考えている間に、シロウは慌てて出て行こうとする。
 その、彼の背中に、

「あ……シロウ」

 私はどうしてか声をかけていた。

「その……わ、私は構いませんが。シロウは私のマスターですし、その……特に問題はありません……」

 そして何故か、あるいは当然なのか。
 こんなことを言っていた。