らいおんの小ネタ劇場
2004 年 5 月 4 日
第 25 回 : 大型連休 温泉旅行・女体編
「ほお……」
立ち込める湯煙の向こう側に沈んでいく夕日を見つけて思わず感嘆の声が漏れた。
同時に夕暮れ時の冷たい風が吹き抜けて行き、僅かに身を竦めてしまう。
纏っていたタオルを外し、少しだけ冷えた身体を湯の中に沈める。
じんわりと身体に染み込んでいくぬくもりが心地よい。
「気持ちいいですね……」
「うん〜、ごくらくー、ごくらく〜」
既に大河は全身から力を抜き捨てて、ぐんにゃりとしている。私はそんな彼女の手元に日本酒がないことを確認し、知れぬように安堵の息をついた。
大河が忘れっぽい人で本当に良かった。
お酒に弱い彼女を取り押さえたり世話したりするので、この心地よいひと時を手放すのは本望ではない。
それにしても本当に気持ちがいい。
この身を撫でる冷たい風と、この身を芯から暖めるぬくもりと、そしてこの眺め。
温泉――露天風呂というのは初めてですが、こんなにも良いものだとは思っても見なかった。
「どう、セイバー? 堪能してる?」
「はい。この温泉とは、思っていたよりもずっと良い」
「それは重畳重畳……に、してもセイバーってば、色っぽいわね……」
「は? なにを言っているのですかあなたは」
にやりと笑み浮かべながら、湯の中に沈んでいる私の身体を凛の視線が舐めるように見渡す。
「白い肌がほんのりピンクになっちゃって……士郎が見たら鼻血ものね」
「なっ……し、シロウが相手とはいえそんなに容易く見せるものではありません!」
「だから例えだってば。まったく可愛いんだからなー、セイバーってば。――ねっ」
「――!?」
その瞬間、伸びてきた凛の両手が私の胸を鷲づかみにする。
「り、凛! あなたは突然なんということを……ちょっ、や、やめ……!」
「うーん、手のひらサイズでもやわっこいのねー」
て、手のひらサイズだなどと気にしていることを……
そうこうしている間にも凛の手のひらがと指が探るようにして私の胸をまさぐり、揉みしだき、眼下で私の控えめな胸が彼女の思う様に形を変えている。
ま、まだシロウにも触らせたことがないというのに!
「凛! 冗談はやめてください、いい加減にしなければそれ相応の対処をすることになる!」
「あん、もー。そんなに怒らないでよ。セイバーが可愛いのがいけないんじゃない」
「私のせいにしないでいただきたい。……まったく」
凛がようやく胸から手を離し、私は彼女から距離をとって身構える。
……前々からもしや、とは思っていたのですが、やはり凛はそちらの嗜好が強いのでしょうか。
「なによ、そんなに警戒心を抱かなくたっていいじゃない。それにしても、やっぱり絶品だったわねー。手のひらサイズで柔らかく、さりとてまだ青い芯を残した少女の乳房……うん、衛宮君にも教えてあげよう」
「よ、余計なことをしないでくださいっ!!」
「胸の小さいもの同士、戯れる様を見るのは和やかな気分になりますね、サクラ」
「そうね、ライダー。先輩は大きいのと小さいのと、どっちが好きだと思う?」
「殿方であれば当然……いえ、これ以上は酷というものでしょう」
湯船の縁に座って、すらりとした足を湯に浸けながらそのような戯言を言い合っている桜とライダーを意識の端にとどめ、私の手をひらりひらりと避ける凛を追う。
今のうちにその口を封じておかなければ凛は必ずシロウに事の次第を言うだろう。遠坂凛とはそういう女性だ。
そのような恥ずかしいことをシロウに知られて、我慢できるものではない。
「まったく、セイバーもリンも慎みってものを知らないのかしら。おフロはゆっくり、のんびりとしているのがマナーでしょう?」
言いたいことはわかりますが、そのお風呂の湯船にアヒルのおもちゃを持ち込んで遊んでいるあなたに言われたくはありません、イリヤスフィール。
「あ、おかみさーん。お銚子いっぽーん」
「はいはい」
『それはだめーーーっ!』
いつの間にか女将を呼んでお酒を頼もうとしている大河を全員一致でとめる。
まったく油断も隙もあったものではありませんね。
「ぶー、セイバーちゃんのいじわるー」
「意地悪ではありません。この件についてはシロウからも厳命されていますので」
だが、しかし。
本当に油断も隙もあったものではないのは大河ではなかった……
そう知らされるのはこの直後のことでした。