らいおんの小ネタ劇場
2004 年 5 月 2 日
第 24 回 : 大型連休 温泉旅行・Interlude 野望編
「……どうだ、ランサー」
「……ああ、どうやら嬢ちゃんたちは今から風呂に行くらしいな」
 壁にコップを当てて隣の部屋の話し声を聴いていたランサーが、アーチャーにサムズアップを出す。
 アーチャーもまた、それに満足げに頷いて背後にいる男にサムズアップを出した。
「では――行くとするか」
「うむ」
「ああ」
 三人の騎士は口元に笑みを浮かべ、互いの武器を抜いて交差させる。
「「「一人は皆のために、皆は一人のために!」」」
 覗きの儀式に宝具を使う馬鹿と馬鹿と馬鹿。
 要するにランサーとアーチャーとギルガメッシュなわけだ。
 そもそも事の発端は、やはりというかなんというか、エロ担当のランサーである。
「おい、おまえら覗きにいかねぇか?」
 温泉といったら覗き――見事なまでの中学生男子な思考の持ち主であるランサーの提案に、まず飛びついたのは意外にもアーチャーであった。
「まさかおまえが頷くとは思ってなかったけどな」
「フ……それはあの小僧を見てそう言っているのか? だとすれば認識を改めるのだなランサー。オレとやつは違う。オレはやつのような皮も剥けていない小僧ではない」
 士郎のことを馬鹿にしているようで実は自爆しているアーチャーに笑みを見せるランサー。
 そりゃあ、誰だって笑うだろうなぁ。
「それよりランサー、貴様こそ良いのか? 覗きなど……英雄とやらの誇りが傷つきはせんのか?」
「はっ! それこそ馬鹿げた話だぜ」
 やれやれ、といった感じで肩をすくめる青い騎士。
 そして次の瞬間、牙を剥いた獰猛な狼のような表情になり、
「この俺が覗きに懸けるのは英雄の誇りではない……漢の誇りだ」
「漢の誇り……なるほど、浪漫か」
「ああ、貴様とて持ち合わせてないとは言わせんぞ……弓兵」
 そう吠えたランサーに、アーチャーは笑みを持って返した。
 すなわち――それは応、ということである。ていうか、こいつら揃いも揃って反英雄だ。
「……さて、英雄王。貴様はどうするのだ?」
 ゆっくりと振り返った先にいるのは英雄王・ギルガメッシュ。
 そして――
「■■■■■ーーー!!」
 英雄王の放った天の鎖によって雁字搦めに、いや、亀甲に縛られているバーサーカーの姿があった。
「そうか……貴様も俺たちと同じというわけか」
「無論。セイバーの裸形、この目に焼き付けずになにが英雄か」
 なにもクソも、普通英雄は覗きなんてしない。
「■■■■■ーーー!!」
 そうして邪悪な笑みを浮かべている反英雄たちをバーサーカーは見ていることしかできなかった。
 衛宮士郎がいない今、イリヤたちを守れるのは自分だけだとわかっていた。
 ――わかっていたはずなのに。
『バーサーカーは、つよいね』
 あの冬の森で、そういって自分に触れたあの少女を裏切ってしまう。
 それなのに、自分はこうして亀甲に縛られ、あろうことか、あろうことか――!
「■■■■■ーーー!!」
 バーサーカーは吠えた。贖えぬ己の罪を懺悔するように吠えた。
 しかしそれでも――彼を断罪してくれる者は誰一人としていなかったのだ。
 そうしてこうして今に至るわけである。
 一方その頃主人公がなにをしていたのかというと――
「おお、兄ちゃんいい腕してるねぇ!」
「いやぁ、いつも家でメシ作ってるの俺なんで」
 ――生来のお人好しスキルを発揮して、厨房で板さんの手伝いなんかしていたのであった。