らいおんの小ネタ劇場
2004 年 5 月 1 日
第 23 回 : 大型連休 温泉旅行・到着編
「ようこそおいでくださいましたぁっ、藤村組の皆さん!」
「うむっ、出迎えごくろー!」
まあ、雷画の知り合いという時点で大体予想はしていたのですが――
「ヤクザ……ね」
「ヤクザ……だな」
シロウと凛のつぶやきが全てを語っている通り、出迎えてくれた彼らの顔には刀傷だとか何かに穿たれたような傷跡だとかが、一人の例外なく残っていた。恐らくこのような温泉旅館を営む前はこの建物も組の事務所かなにかだったのでしょう。
「いやぁ、よくきてくれたねぇ大河ちゃん。こう言っちゃなんだけどウチの旅館、ゴールデンウィークだってのに全然お客さん来てくれなくってねぇ」
「いえいえ、こちらこそおかげさまで助かりました。持つべきは友達と客の来ない旅館ですよねー」
「「あーはっはっはっはっ」」
「いや、そこはきっと笑うところじゃない」
疲れたように指摘を入れるシロウのつぶやきにも関わらず、二人はしばらくそうして笑い続けていた。
なんというか……藤村の関係者というのは皆こうなんでしょうか?
「さて! それじゃやっぱり最初は温泉かな?」
宛がわれた部屋に荷物を下ろし、凛が窓から外を眺めながらそう言った。
南向きの窓の向こうには、今にも山の稜線に消えていきそうな太陽と、その光に紅く染め上げられた木々が連なっている。
これほど多くの自然は、冬木市ではさすがに見ることができない。
心なしか空気の匂いさえ清涼で、これだけでも来た価値があったのではないかと思えた。
「姉さん、セイバーさん、浴衣ありますよー」
「これが浴衣ですか……初めて着てみましたが、意外とスースーするのですね」
振り返ると浴衣に着替えた桜とライダーがいた。
桜はともかく、着るのに慣れていないらしいライダーは、緩んだ胸元を手で合わせている。
「……」
「……」
無言で自分自身を見下ろす私、そして凛。
いえ……別に、なにがどうというわけではないのですが。
「ああ、そういえばこの浴衣というのはは生地が薄いですからね。サクラと私を見て貴女方が劣等感を抱くのも無理はありませんが」
「黙れ牛女め」
「セイバーさん、だからといってイリヤちゃんと比べるのはあまりにも自分を追い詰めすぎだと思いますよ」
「桜、あなたは激しい勘違いをしている。私はそういうつもりでイリヤスフィールを見ていたのではない」
「じゃあ、どういうつもりでわたしのことを見てたのかしら?」
「……いえ、その温泉饅頭、私の分も残して置いていただければ、と」
「それはわたしじゃなくてタイガに言ってよ」
――などと。
温泉に入る前に、こんな他愛もなく、非常に精神的によろしくないやり取りをしていたのですが――
そのおかげで直感のスキルが働かず、隣室の男性部屋で行われていた謀議に気づかなかったのは、やはりこの身の不覚だったのでしょう。