らいおんの小ネタ劇場
2004 年 4 月 27 日
第 19 回 : おしおき
ぎしり。
板張りの床は一歩踏み歩くだけできしむ音を上げ、そのたびに私の心音は大きく跳ね上がる。
ぎしり。
一歩踏み出す。確実に目的に近づいているとわかっていても、それがこんなにも遠く感じられる。
ぎしり。
更に一歩。そしてまた一歩。
音を立てぬよう、気取られぬように私は歩を進め、暗闇に落ちた中を忍ぶ。
そして遂に辿りついた。
ここには全てが……今の私を満たす全てがある。
この道程のなんと長かったことか。これで私はようやく、空虚な己から逃れることが出来る。
時が過ぎるのをじっと待ち、やがて日が昇れば満たされるとわかっていても……。
それでもその僅かな時間でさえ、私は耐えることが出来なかった。
この苦しみはそれほどまでに私を苛み、心を蝕んだ。
だがそれもこれまでだ。目の前にあるこの扉を開けば私は――
「そこまでです」
聞きなれた声が耳朶を打つ。振り返る暇もなく、周囲の暗闇は切り裂かれ光に満ち満ちた。
「捕えましたよ下手人。毎夜毎晩の乱暴狼藉ももはやこれまでです」
「桜……!」
背後に立っていたその人物の手から鎖が飛び、私の身体に巻きついて拘束する。
なんということだ。よりにもよって桜の手に落ちるとは……!
というか、この鎖、ライダーの持ち物ではないですか。
「神妙にお縄を頂戴してくださいね、セイバーさん」
「お縄というより鎖なのですが。というか、既に捕まっていますよ」
「はあ……反省の色がありませんねセイバーさん。いいですか? お腹がすいたのはわかりますけど、明日の朝ご飯とお弁当のおかずを夜のうちに食べないでくださいって、あれほど言ったじゃないですか」
「しかし……! それでは私はどうすれば良いというのですか!?」
「少しくらい我慢してください」
それができるようならとっくにそうしてます、桜。
無理だったからこうして恥を忍んで冷蔵庫を開いているのではないですか。
「ま、とにかくこうして現場を抑えたからには、セイバーさんには然るべき罰を与えなくてはいけませんね」
「う……」
にっこりと。
そう形容するに相応しい笑みを浮かべた桜の表情が今の私には般若の表情に思えて見えた。
「なあ、セイバー。ほんとに朝飯いらないのか?」
心配するシロウの声が突き刺さる。ともすれば鳴り響きそうな空腹の音を必死に堪え、私は笑顔を浮かべた。
ああ、今私はとても自分を力いっぱい賞賛したい気分です。
「先輩、気にしないでも大丈夫ですよ。セイバーさん、今朝はもうお腹いっぱいだそうですから。ね、セイバーさん?」
にっこりと。
そう形容するに相応しい笑みを浮かべた桜の表情が今の私にはあくまの表情に思えて見えた。
もちろん大丈夫なんてことはないし、お腹がいっぱいだなんてこともない。
叶うならばシロウが作ってくれた食事を頂きたい気持ちでいっぱいなのですが……。
あの、写真が。
私が罪を犯したその証拠を捉えた写真さえなければ……!
くっ……さすがは桜。伊達に凛の妹をしているわけではありませんね。
まあ、それはそれとして――お腹すきました。