らいおんの小ネタ劇場

2004 年 4 月 23 日


第 15 回 : マッスル・マジック

「む……!」

 昼の瞑想を終えて居間に戻ると、大の字になって眠っているシロウがいた。
 そういえば昨晩は随分と頑張ってしまいましたから、シロウも疲れているのでしょう。無理もありません。

 ……ちなみに頑張ったと言うのは、日課の鍛錬のことです。

 さて、それはいいのですが、そんなシロウを睨みつける私の精神状態はというと、これが非常によろしくない。
 この時代にやってきてからというもの覚えて久しい感情が頭をもたげている。
 その感情の名は『嫉妬』という。己自身これが負に類する感情であると知ってはいても、私がシロウを想っている以上、決して避けえぬのが道理であるとも知っている。

「で、何故イリヤスフィールが一緒に寝ているのですか、シロウ?」

 聞いたところで眠っているシロウが答えるわけもない。
 ただその表情が魘されているかのように少し曇ったのが気になりますが。悪い夢でも見ているのでしょうか。

 対照的にイリヤスフィールはシロウの胸に頭をこすり付けて、それはそれは幸せそうな顔をしています。
 頬は緩々に緩みきっていてほのかに紅潮しているし、なんですか、その猫みたいな口は。

「う〜ふぅ……シロゥ……」

 などと寝言をつぶやきながら、ずりずりと這いずるように情報に移動し、シロウの首筋に鼻先を埋めるイリヤスフィール。
 彼女の細い腕はシロウの肉体に回され、足までもしっかりと絡み付いている。
 その様は私から見ればまるで獲物に絡みつく蛇にしか見えない。

「クッ……不覚。こうも容易く敵の接近を許してしまうとは」

 シロウを護ると誓ったこの身にしてみれば、この失態は許しがたい失態である。
 どうにかしてシロウを救い出したいのですが、こうまで懐深くまで侵入されては手のうちようが――。

「いや……ひとつだけありましたね」

 それは確かにシロウを直接救い出すことの出来る手段ではない。
 しかし、イリヤスフィールに確実に痛手を与え、彼女の心奥深くにまで痛撃を与えることが出来る。
 とても――とても残酷なことだとわかっている。だが、私は――!


「きゃーーーーっ! なっ、何なのコレ!?」
「あ、イリヤ……鏡で自分の顔見たみたいだな」
「そうみたいですねぇ……」

 シロウのつぶやきに答えながらお茶を飲む私。
 今頃イリヤスフィールは一生懸命自分の顔を洗っていることでしょう。

「しっかし誰なんだ? イリヤのおでこに肉なんて書いたの……」
「さあ、誰なんでしょうねぇ……」

 ま、水性ですし簡単に落ちるでしょう。
 恨むなら私にこの手段を伝授した凛を恨んでくださいね、イリヤスフィール。