らいおんの小ネタ劇場
2004 年 4 月 21 日
第 13 回 : ウェディング・ベル
響く鐘の音と舞い散る花吹雪。
ああ、まさか丘の上の言峰教会でこのような光景を見ることになろうとは思っても見なかった。
周囲の祝福の声に包まれながら、チャペルから現れる葛木宗一郎・メディア夫妻。
今日は彼らの結婚式である。彼らは、特にメディアは聖杯戦争が終った直後から良縁吉日を選び、ずっとこの日が訪れるのを待っていた。
「うーん、やっぱり綺麗だよなぁキャス……じゃなくてメディアさん」
「そうですね。同感です」
そのような言葉をシロウの口から聞くのは少々悔しくもあったが、それを否定できるような余地はどこにもないほどいまの彼女は美しい。
目じりにはうっすらと涙をため、口元には絶やさぬ笑顔。
空色のウェディングドレスに身を包んだ彼女は、夫となる男性の隣でとても幸せそうだった。
そんな彼女を見ていると、やはり結婚式の前に言峰を全力で排除したのは間違いなかったと断言できる。
ニヤニヤとしたあの性質の悪い笑みを浮かべながら、
『ふっ、一生忘れられぬ式にしてやろう。神に誓って』
などとあの口で言うのですから、どうにかしないほうがおかしいというものです。
私とシロウとバーサーカーでさんざん追い回した挙句、最後はライダーに捕縛され、凛のガンドをたらふく打ち込んでおいたかのだからしばらくは動けないとは思うのだが、あの鼻汁に塗れた顔が最後まで笑っていたのが気になる。
……いえ、今はそのようなことを気にせず、若い夫婦の門出を祝うのが先というものだ。
花吹雪が降り注ぐ中、腕を引かれて歩いてくるメディア。
彼女が羨ましい。あのように愛した男性の隣りを歩き、花道を往けることがどれだけ幸せなことか……。
「悔しいけど、ステキね」
「はい、羨ましいです」
「葛木先生、無口でぶっきらぼうだけど優しそうですし」
「メディアも昔はいろいろあった女性ですから……ひとしおでしょう」
と、口々に言い合いながらも隣にいるシロウの顔をそっと仰ぎ見る。
「あれは……!」
「シロウ? どうしたのですか?」
目を見開き驚いているシロウ。彼の見ている視線の先に目を向けると、そこには、
「……言峰!?」
そう、そこには厚着してマスクをした言峰が仁王立ちに立っていた。
自分で点滴のパックを持ち歩いている辺り芸が細かい。そこまで具合が悪いなら大人しくしていれば良いものを。
誰もが言峰の存在に気づき、一同が静まり返る中、彼はウェディングロードを歩いてきた夫婦に向かって歩いていく。
メディアは顔を曇らせ、宗一郎は彼女を庇うように前に出る。
そして私たちも臨戦態勢を取っていつでも出られるように構える中、言峰は口元を覆っていたマスクを外し、
「……へっくちん!」
……なんというか。
まあ……思いっきりけちがついたといえばついたのだろうが……この男はいったい何しに来たというのか。
「……セイバー、行くぞ」
「……了解です、マスター。いつでもご命令を」
正直、とても脱力しているのですがあのままアレを放っておくわけにもいかない。
とりあえず凛にはもう何発か撃ちこんでもらって、今度こそしばらく動けない身体になってもらうとしよう。
その後は何事も無かったようにつつがなく、花嫁の手から投げられたブーケは、平等にそれぞれの手に渡った。
激しい争奪戦の末に手にした何分の一かのブーケのひと房。
ですが――
「良かったじゃないか、セイバー」
――そう言って頭を撫でるシロウが何もわかっていないのだから、きっとまだまだ先は長いのだろう。
「なにため息ついてるんだ?」
「知りません」