らいおんの小ネタ劇場
2004 年 4 月 17 日
第 9 回 : 乗り物
商店街を歩いていると、背後から地を揺るがすような足音が聞こえてきました。
この足音は――。
「あっ、セイバー」
「やはり貴女でしたか、イリヤスフィール。そしてバーサーカー」
「■■■■■」
見上げるような巨体のバーサーカーの肩に乗ったイリヤスフィールが、私を見下ろして手を振っている。
初めてバーサーカーがこの商店街に現れたときこそ騒ぎになったものの、今ではすっかり受け入れられていた。
容貌こそ恐ろしげなバーサーカーだが、戦闘状態にない彼は至って穏やかな人物だ。気は優しくて力持ち、を地で行っているようなものです。
……この商店街の人たちが一風変わっているということも、容易く受け入れた要因のひとつとしてあるのでしょうが。
だいたいギリシャ神話の英雄を土木工事に駆りだす商店街がいったいどこにあるというのでしょう。
まあ、代わりにバーサーカーも報酬として米穀通帳とやら受け取っているそうです。士郎の話によると、お腹いっぱいごはんを食べられる通帳なのだそうです。
「ねえ、セイバー、これからどこに行くの?」
「いえ、別段どこへも行く予定はありませんが。これから家に帰ってお昼ご飯です」
「ふぅん……じゃ、私たちと行き先は同じなのね」
「……イリヤスフィール、貴女またお昼を集りにくるのですか」
「いいじゃない。士郎のご飯美味しいもの。ねっ、バーサーカー?」
「■■■■■ーーー!!」
イリヤスフィールの問いに答えて吼えるバーサーカー。
「そうだセイバー、セイバーも良かったら乗っていく? どうせ行き先は同じなんだし」
「乗っていくって……バーサーカーにですか?」
「うんっ」
「■■■■■」
イリヤスフィールはにこにこと笑い、バーサーカーはイリヤスフィールが乗っていないほうの腕を回して私を誘う。
……そうですね。
「おお……」
「ねっ、すごいでしょセイバー、バーサーカーは」
確かにこれはすごい。
これだけ高いと、当に世界が変わったかのような印象を受ける。
バーサーカーが歩くたびに響く振動に上下に揺られながら、私は初めての世界に感動していた。
――そして。
「うっ……」
「おい、大丈夫かセイバー?」
「ふぅん……セイバーって乗り物に弱かったんだね。知らなかった」
……気持ち悪い。
酔いました。まさか騎乗スキル:Bを持つこの私が乗り物酔いするとは……恐るべしバーサーカー。