らいおんの小ネタ劇場

2004 年 4 月 15 日


第 7 回 : アルバイター

「セイバー、あんた少しは働いたら?」

 居間でテレビを見ていたところ、凛に見下した視線で言われた言葉が屈辱だったのでアルバイトをすることにしました。
 シロウには無理をするなと言われたのですが……平気です、大丈夫です、何の問題もありません。

 ですからそのように幼子を心配する母親のような目で見ないでください。


 こうして私が勤務することになったのは、マウント深山商店街の一角にあるケーキ屋、シャルフ・トルテ。
 甘みを売りとするケーキ屋なのに、唐辛子クーヘンなどのエキセントリックな商品を扱うケーキ屋として有名です。
 かくいう私もこのお店はよく利用しており、店主とは懇意にしていた。だからこそこうして雇っていただけたというわけです。

 店の制服に袖を通し、レジに立つ。そして私にとって最初のお客がやってきた。

オレのモノになれ、セイバー!」
「開口一番それですか、ギルガメッシュ……」

 よりにもよって最初がこの男とは……何もかもが台無しです。
 ですが、いくらこの男があの駄目人間養成所である教会の住人とはいえ、お客はお客です。
 先ほど店主から教えられた通りに接客しなくてはなるまい。

「お客様、どちらのケーキになさいますか?」
「セイバーだ」
「殴られたいのですか、お客様?」

 ああ、この男のニヤニヤとした顔を見ていると無性にぱんちを叩き込みたくなってきます。
 それはおそらく私だけでなく、事実として、凛が思い切りベアを撃ち込んでいたところを見かけたこともある。あれは腰が入ったとてもよいベアでした。

「ギルガメッシュ。買うなら買う。買わないなら買わないではっきりしていただきたい。見ての通り、今私は勤務中です。もしあなたが邪魔をするというのであれば、約束された勝利の剣エクスカリバーも辞さない覚悟ですが」
「ふむ。ならば致し方あるまい。イタイのは怖いからな。……ではこのザッハ・トルテとやらを頂こうか」

 意外と素直に応じたギルガメッシュの注文通り、ザッハ・トルテを包んでギルガメッシュに渡し、レジを打つ。

「680円です」
「ない」
「……は?」

 今、なんて言いやがりましたか、この金ぴかは。

「何故、この我が雑種ごときの作った食い物に金を払わねばならんのだ! オレは王ぞ? ならば雑種のほうから喜んで捧げるというのが当然ではないか、セイバーよ」
「……なるほど」


 数分後――。

「お、おのれ離せ雑種! オレを誰だと思っているのだ、この地上を統べる王であるぞ!」
「あー、はいはい。わかったわかった、話はゆっくり交番で聞いてやるから」
「春になると増えるんだよねー、こういう連中」

 両側から警官に拘束されて去っていくギルガメッシュを眺めながら、無理と知りつつ私は願いました。

 ――もう二度と来るな、と。