らいおんの小ネタ劇場
2004 年 4 月 13 日
第 5 回 : 花見で一杯
満開に咲き誇った桜の花。
暖かな陽気と桜の色に包まれながら手に持ったコップの中身を口に含むと、慣れないアルコールの匂いに混じる僅かな花の薫り。
コップの中にはいつの間にか舞っている花弁のひとひらが、彩を添えていた。
というわけで、私たちはお花見に来ています。
発起人はやはりというか大河で、あとはどこからか噂を聞きつけた宴会好きの連中が集まり、気がつけば総勢十人を超えるサーヴァントとマスターの大集団が花見会場に会し、一種異様な空気を醸し出していた。バーサーカーとか。
とはいえ、もちろんそのようなことで臆するような者がこの面子の中にいるはずもなく、各々がこの短い花の饗宴を楽しんでいた。
そんな中で、ひとり桜の大木に背を預けて盃を傾けている男がいた。
「アーチャー、楽しんでいますか?」
「セイバーか……。ああ、まあそれなりにな」
微かな笑みを口元に浮かべて、手にした盃をぐっと煽る。
すっきりした着流しに身を包んだアーチャーがそうする様は、この桜の花の舞い散る光景の中で誰よりも絵になる様だった。
「珍しいな、君が私に気をかけるとは」
「そうでしょうか、私は貴方のことを忘れたつもりなどありませんが」
「ふ。それはヤツがいるからだろうよ」
「……そうかもしれませんね」
言いながら私は差し出された杯を満たし、アーチャーはそれを一息で干す。
「うまいな」
「大河の秘蔵のお酒だそうです」
「なら、せっかくだから飲み干してやろう」
くっくっ、と人の悪い笑みを浮かべるアーチャーに、どこか安堵しながらもう一献注ごうとすると、
「む」
「……」
「シロウ?」
赤ら顔をしたシロウが私たちの間に入り込み、盃を差し出してきた。
「……セイバー、注いでくれ」
「シロウ、酔っているのですか?」
「酔ってなんかにゃいっ」
あからさまに呂律の回っていない舌でそう叫び、シロウは私が満たした杯をぐいっと一気に飲み干す。
そして据わった目でアーチャーを睨みつけると――
「シロウ? ……あッ!?」
――急に私の肩を腕を回し思いっきり抱き寄せた。
「し、シロウ!?」
「……何のつもりだ小僧」
「うるせえ。セイバーは俺ンだ。てめえにゃ渡さねえぞ、この若白髪」
シロウ……。
彼のその言葉に、酒の席の上での言葉とはいえ頬が染まるのを止められない。
いえ、酒精が入っているからこそ、これがシロウの本音ということも――
「ならば凛は私が頂いてもいいと良いということか?」
「あン? 戯けるな弓兵、遠坂も俺のだ。あと桜もイリヤもライダーも藤ねえもみんな俺のだ。てめえには誰一人として渡さん」
「ほう……つまり貴様は、私に喧嘩を売っているのだな?」
「叩き売りだ、相手になってやるぜ」
――ほんね、ですか。
それが貴方の本音ということですか、シロウ?
つまり貴方は……この身を弄んだと、そういうことなのですね?
「身の程というものを教えてやろう、戯けめが」
「今日こそ白黒つけてやるよ、おっさん!」
好戦的な笑みを浮かべて干将・莫耶を投影するエミヤとシロウ。
そして私はというと、その後ろで風王結界を振りかぶって――。
「あーあー、これじゃしばらく目ぇ覚まさないわよ、アーチャーも士郎も」
「セイバーさん、少しやりすぎだったんじゃないんですか?」
「まあ、あのまま暴れられるよりはマシだったんじゃないかしら。あ、ライダー、あとでシロウの膝枕代わってね!」
「はい、イリヤスフィール。――士郎の髪は意外と柔らかいのですね。知りませんでした」
「はぁっ……いったいどこでこんな風になっちゃったのかしら。士郎もだんだん切嗣さんに似てきたなぁ」
まったく、もう……シロウのばか。