夏の夜。蒸すような暑さは無く、吹き抜けていく風が体に身を寄せる。
森は静かに佇み、しかし然とその身を大地に張る。その強さと儚さが、時に人に安らぎを齎す。
空は揺れる葉や枝に遮られ合間合間にしか見えずとも、雲1つ無い、黒というよりは紺に近いキャンパスで星は瞬き、淡い光源と共に影を落とす。


「――――――ん…」

そんな中、白と黒が重なりを持っていた。
初々しいながらも情熱的なそれは、まるで闇に揺らめく炎。

「―――――――――」

その炎で、凍った。
さっきとは別の意味で、凍ってしまった。
本当に、全く訳が判らなくなって、ただ呆然と立ち尽くす。
意味が判らない。理由が判らない。動機が知れない。過程すらも無い。
唐突に現れ、唐突に動く。何もかもが先読み不可能な少女の言動。

ただ、淡色モノクロで彩られた写真は既に確定していた事実。そう錯覚させる何かが脳裏を巡っていた。
額に入り飾られた記憶。それほどまでに絵になる現状だったと、言わざるを得なかった。
しかし、いつまでも続くかと思われた静かなる宴も呆気無く、其処で終演を迎える。

「―――っい、行き成り何しやがんだオメーはっ!?」

慌てて相手の肩を突き飛ばして密着していた唇を離し、自分も逃げるように飛び退き間を取る。
ついでに唇を拭うのも忘れない。良く見れば、お互い頬が上気していた。
それを見て漸く脳が働き始め、何が起こったのか理解できるようになる。

何と言うか、本来とはまた別の意味で敵意を向けるトール。
その蒼い瞳には何が映っているのだろう。


――突然の行為を受けた困惑?

――知っている者が居て歓喜?

――未知なる道程を進む不安?

――昨夜の襲撃に対する憤怒?


対して突き飛ばされた少女は、その結末が自分の考えていたものと大きく違っていた、とも言うように立ち尽くしている。
そして、悲しそうに眼を細め、悔しそうに唇を噛んで俯き―――

「…何だ。まだ、全部は思い出せてないんだね」

それは、誰に対しての感情だったのだろう。

「―――Pray before being called for heavensただ、思い出して欲しかった

それは俺が最も拒み、救いたかったはずの表情では無かったのか。


愁いを帯びた涙を瞳に浮かべ・・・・・・・、その身に微かな、しかし確実な悪意を孕ませた。

















〜Pray before being called for heavens〜
第6部-act.2-

















「――――――っ」

驚異的な魔力の収束に、思わず後ずさりして身構える。
先程までの無垢な表情から一転、明らかな失望の念が周囲を覆い尽くす。

森はざわめき。先とは違う一面を見せる。
少女は指の腹を噛み切り、言の葉を繋ぐ。

「―――Masse, Blut, Wissen unterrichtet地は騒ぐ 血は騒ぐ 知は此処に

少女の指が宙を舞う。その度に滴り飛び散る紅が、地に数多の陣を描いていく。
描かれた円は淡く輝き、中心部から地を這うように光が伸びる。
全ての光が集まった場所へ更に魔法陣が現れ、大地を隆起させる。辺りには地響きが巻き起こり、その質量と脅威を直感的に察知させられる。
"血の踊り子ブラッディゴーレム"。昨夜もまた現れた、不死の兵士。
しかし、今宵見る血は以前の比では無かった。魔力量、存在感、戦闘力。そのどれもが昨夜のそれとはケタ外れなのだ。
生命の誕生。その全てを見せるように生まれ出で、圧倒的な高さから俺達を見据える赤黒く染まった土色の巨兵。

―――その光景はまるで、災害。
目の錯覚か。あるいは現実か。時に民を慈しみ、時に民を裁く大地。それそのものが襲い掛かってくる恐怖。
決して人間風情には抗えぬ確固たる存在。それでも個の理由が為、必死にもがき対抗してきた相手。いや、これからも抗い続けていくであろう、世界の先住者。

「―――う、そ」

隣で呆然とした遠坂の声。過去に感じた事の無い戦慄に身を震わせる余裕すら無い。

―――今まで、手強い敵、勝てるかも判らない敵、必死の敵。様々な障害物にぶち当たってきた。
いざとなれば問答無用で気合を入れて戦いに臨んだし、出来る限りの事をやってきた。
それが間違いだったとは思わないし、仮に間違ったとしても過去を清算しようなどと思ってはいない。思ってはならない。
そんな思考が悠長に感じられる。文字通り足が竦む。彼の狂戦士も、英雄王も霞んで見える訳では無い。
これは別次元の問題。戦う手段など在りはしない。何処に居ようと結末は同じ。
故に、災害。人間の戯言に耳を貸しなどするはずも無く、ただ1つの目的の為前へ進む。
だから、アレとは戦ってはならない。それは自然を、真理を、歴史をも、否定する事になるのだから。

「冗談じゃないわよ…どうやってあんなのと戦えってのかしら?」

憎まれ口を叩きながらも体は一向に動いていない。
いつもなら既に構えているはずの、腰を落としいつでも走れる状態を保つ彼女のスタイル。
癖すら出せない。最早これは直感では無い。言うなれば、事実。
既に其処にある確定事項が、何もかも遅い事を知らせているのだ。

「―――"母なる大地"、ってか」

その時、今まで一番挙動不審に陥っていた少年が前へ出た。
落ち着きを取り戻したのか微かに口元を吊り上げ、ゆっくりと、一歩、また一歩と神は歩む。
その表情に恐れは無く、僅かに懐かしんでいるようにも見えた。

―――何を考えている。

―――アレは手に負えない。

―――緩やかに進む自然の輪廻を壊すのは誰でも出来る。

―――それでも、一度目覚めた自然に対抗する力など無い。


「ト―――」

俺の呼びかけを遮るように、俺達全員を巨兵から護るように立ちはだかり、少年はぽつりと呟いた。
晴天から落つる一滴の雨のような、とても小さな声。
いつか聴いたあの時の唄のような、とても心に響く声だった。











「…ビビッてんじゃねェよ。自然ってのは大地が全てか?」












―――たった一言が、とても重かった。

考えてきたものを丸ごと引っくり返すその一言。


―――"自然は大地だけじゃない"―――



そうだ。あいつは神だった。
始まる前の世界。無であったり混沌であったりと様々な説は流れるが真実を見たものは少ない。いや、それが真実なのかすら確証は無いだろう。

何故、俺達の知る世界が出来たのか。
何故、神が世界を天と地に分けたのか。
何故、存在が存在するのか。
それは俺達には知る由も無い。
それでも、分けられたのには何か理由があったんだ。
理屈なんて判らない。ただ分かれているという既成概念。
証明なんて無くていい。ただそれを積み重ねてきたという既往概要。


それで十分。

勝てないのなら何故抗った。

負けると判っていて何故挑んだ。

答えは簡単。何故なら―――






頑張ったなら、報われなくちゃ嘘だから―――!







「遠坂、トールと組んで本体の掃討。俺とセイバーはあのデカブツを叩く」

端的な台詞で戦略を告知。あの少女が魔術師だというのならば、一番手っ取り早いのは術者の無力化。
今回、遠坂には悪いが彼女は一回休みだ。宝石だけが彼女の魔術では無いのだが、正直アレに補欠魔術はおろか、ガンドさえ通用するとは思えない。
あの巨兵を倒せるのは、呪いなどでは無く、物理的破壊力。
組成物質が血液と土ならば、紅い泥団子とでも考えてもいい。
奇妙な存在ではあるが、所詮は使い魔。英霊でも無い無機質の塊になど、此方の布陣が引けを取る訳は無い。

―――たったそれだけ。こんなものを理解する事など容易だったというのに、全く何という体たらく。
良いだけ振り回されて、頭が凍っただの身が動かないだの、そんな事脳味噌に張り巡らせてる暇があったらとっとと動け―――!

投影、開始トレース オン―――」

瞬間的に魔力という水を回路という管へ流す。
両手には、元より其処にあるべき物と感じるほどの感触。陰陽対極の双剣、干将莫耶。
ギリ、と感触を確かめ屠るべき敵へと視線を向ける。

「―――悔しいけど、今回は私がお荷物みたいね」

「バカ言うな。遠坂が居なかったら総崩れだ」

「弱音を吐くとは貴女らしくもない。負担になる事を嫌い、脱出口を徹底的に探すのが貴女でしょう」

「こらセイバー、アンタこの際だからって好き勝手言ってんじゃないわよ」

視線は変えずお互い言葉を交わす。彼女の顔が見えなくても、どんな表情をしてるかなんて最早愚問。
そうだ。俺達はこうやって戦ってきた。いつどんな状況下でも変わらず話し掛け合ってきたんだ。
誰もがお互いを信頼してきたから。誰かが2人を気遣って、2人が誰かを気遣って、支えあって進んできた。
三人寄れば文殊の知恵。ならば、間違いなど生まれるはずは無い―――!

「―――後悔は終わったかな?…まぁ、先に出来ないから後悔なんだけどね」

涙を拭い、少女右腕を天に翳す。それとと同時に、土色の巨兵の目にぼんやりと意思が灯っていく。
叫びはしない。そんな無駄な労力など不要。ただ主人の命に従う、それだけでいいのだから。

でも、もう目は覚めた。
恐怖も悪寒も何も無い。
まだ感じるというのなら、俺は皆にまだ何かを求めている事になる。
そんな事、ある訳が無い。
これ以上のパーティなんて居やしない。だから―――

「後悔なんてしてない。これからも、ずっとしない」

「アンタにどれだけ力があっても、私達に勝てる訳はない」

「元より、このようなところで膝を折る足を持ち合わせてはいない」

俺達の返答を聞き、笑みを零すトール。
そして、訊きなれたあの台詞を口にする。

「思い出す出さねェはオレの勝手だとして、戦るなら戦ろうや。その代わり―――」








―――召される前に、祈っとけよ?―――










〜interlude〜










正直、不安に押し潰されそうだった。

先の遊園地なる場所を訪れた際に現れた、黒髪の少女。
彼女からはトールと同じものを感じていた。
純粋で、本当に年相応の子供のようで、はたまた年不相応の威圧感も持ち、何か隠し持つものがあって。

あの2人は一言一言が重い。まるで彼の弓兵。シロウが乗り越えるべき1つの壁であり、全てを熟知していた彼とは別人の彼。
あの時の焼き増しに見えたからだろうか。私が微かな敵意を覚えたのは。
或いはトールとシヴ、両名が似通った存在に感じたからだろうか。私が後ろめたい感情に襲われたのは。

昼間の感情は嫉妬であったと言えば頷ける。
今のこの想いも単純な敵意であるならばそれで良い。

―――それだけか。本当に私はそんな温い考えに振り回されていたのか。

―――否。何かある。彼らの外見はおろか、内面を知ったとしても今は何も判るまい。されど、この沸々と湧き上がる感情は何だ。

遠い昔、これと同じ気持ちを経験したような気がする。
本当に、気が遠くなるほどの昔に思えた。
私の記憶の長さと実際に流れた時間は比例していない。
故に、片付けられていない記憶の棚が散漫していた。

彼女は言った。"思い出せ"と。

彼は答えた。"思い出せない"と。


"思い出す"とは何なのだろう。何によって定義されるのだろう。

過去にあった事象が再び無意識のうちに脳裏に巡る事?

若しくは自分自身の意思によって過去を呼び起こす事?

第三者によって無理矢理に記憶を引きずり出される事?


多分、どれもが正鵠であり、誤答であるのだろう。
その昔、こんな言葉を耳にした。



―――"多彩な色を鮮やかと呼ぶ"のでは無い。"鮮やか故に色と呼ぶ"―――




今この状況に全く関係の無いであろう回想。
きっとこれが、"思い出す"という事。

あの2人は、それすらも知っているのだろうか。

少女に向かって疾走する少年を見て何故か、親心に似た感情が芽生えていた。








〜interlude out〜









「―――っおおおおおぉぉぉおおっ!」

気合一閃、干将で土の巨兵の右肩へ渾身の一撃を叩き込む。
―――が。

「―――――――――」

硝子に亀裂が入る音と共に、斬るどころか此方の武器が砕け散る。
ゴーレムは動きを見せず、斬られそうになった・・・・・・・・・部分を見て、俺に目を向けた。

右から薙ぎ倒すように丸太――いや、最早大砲のような腕を振り回す。
背丈の違いが幸いし、反応し切れずとも地面に這い蹲る事で事なきを得る。

…冗談じゃない。あんなの食らったら最後、肋骨数本折って病院行きじゃ済まないぞ―――!

「はああぁぁぁあああ――――――っ!」

突如目の前に現れたセイバーが慣性のついたまま不可視の剣を振り上げる。
それを視認するや否や、図体に似合わぬ速度で即座に両腕を十字に構え、衝撃に耐えようとする巨兵。

ゴーレムの体が少しの間宙に浮く。
それは、決して鉄と土が交わった音では無かった。
まるで鉄板をハンマーで殴ったような鈍い金属音。凄まじい鍔迫り合いによって音が音を奏でる。

巨兵はその質量に物を言わせ、そのまま倒れ込むようにして全体重を彼女へ向け潰しにかかる。

「―――っく、あ、あ、ああああぁぁぁ…っ!!」

地割れに挟まれるように徐々に地を砕き沈んでいく彼女の躯体。額には既に大量の汗。剣を握る手は体に押し付けられ、地を踏み締める足はガクガクと震え、顔は苦渋の色に満ちている。
たった一度剣を交わらせ、拮抗しているだけであの騎士王がこれほどまでに圧されている。
その苦痛は、人間に耐えられるものでは無いと現状が物語っていた。

「くっそぉぉぉおおおおっ!」

激情に任せて残った莫耶に有りっ丈の力を込め斬りかかるが、此方も呆気無く粉砕していく。

「シロウっ!離れてっ!」

セイバーに一喝され苛立ちを抑えながら後ろに退く。
振り返ると丁度ゴーレムの体を受け流し辛うじて飛び退いているところだった。

―――何という事か。俺の全力をぶつけても傷は愚か注意を向ける事すら出来ない。
あれだけ気合振り撒いて突っ込んできたってのに。また俺は、まだ俺は、彼女に頼らなきゃならないってのか―――!

「はっ、はっ―――っ、はっ、シ、ロウ」

息も切れ切れに騎士は言葉を繋ぐ。

「落ち着いて―――ください。貴方には、貴方にしか、出来ない事があるはずです―――!」

この期に及んでまで俺を気にかけているセイバーに、少なからず罪悪感を覚える。
しかし、今はそんな事に気を取られている場合では無い。
彼女の助言が何を表すのか、自分自身で見出さねば。
たとえ勝機の薄い結論だとしても、実行しなければ可能性すら無い。


頭に上った血を落ち着け、煮えたぎる感情を鎮めろ。
そして考えろ。今俺に、一体何が出来るのか。




―――俺にしか出来ない事。投影、強化、解析。

投影:唯一の攻撃手段ではあるが、先刻使用した際これと言って目立った成果は挙げられなかった。―――却下。
強化:魔力の消費を抑えつつも武装を形成する事が可能ではあるが、対象とする物質が必要となり、現在強化対象になるものは所持していない。―――却下。
解析:目標は余りにも不可思議ではあるが、以前の解析結果によれば血の踊り子ブラッディゴーレム本体の構成物質は土と血液のみ。先の干将莫耶が破損した理由が不明である為、唯一有効な手段であると推測される。―――実行。



「―――同調、開始トレース オン



全神経を大地の化身へ向け、解析を試みる。

―――前提。
対象を構成する物質は土と血液。その2つが魔力という骨に纏わり付き、形を作り上げている。

目を閉じ、心を閉じ、自分と言う殻に篭る。

―――前提認識終了。続いて外部解析開始。
岩が赤色に染まっているところを見るに、対象の外装はほぼ血液によって覆われていると思われる。
更に血液に大量の魔力が張り巡らされている事から、総魔力量が対象を越える数値でなければ紙が火によって灰になるように、事も無げに此方の武装は破壊、或いは貫通する事無く鍔迫り合いをする形に留められる。
自軍最強の魔力を所持するセイバーの攻撃でさえ通らないのであれば、現時点であの装甲を破る事は不可能。

段々と遠くなっていく剣戟。

―――外部解析終了。続いて内部解析開始。
対象の中枢を成す核部分は、ヒトで言う心臓の位置。正確にはそれよりも多少中心に移動した場所にある。
核部分からは無数に枝分かれした魔力の筋が伸び、先に解析した血液外装を形成している。
ヒトと言う比喩を使うならば、筋肉にあたる岩石部分は、ほぼ自然の状態であり、言うなれば彫刻を施したただの土である。
先に述べた枝分かれした魔力の流れをすり抜け、核部分のみにダメージを与える事が可能ならば、攻略は容易い。

見えない。聴こえない。感じない。

―――外部解析終了。続いて仮説組成。
外部解析時に述べられた"総魔力量が対象を越える数値で無ければ貫通不可能である外装"。
此処で、1つの仮説を建てる。
"干将莫耶が投影魔術によって編まれた武装である為に破損したのであれば、全く関連性の無い素手に対して外装は無力では無いか"。
この仮説を立証する既成事実さあれば、対象攻略に大いに貢献すると思われる。
逆に立証できなければ、対象を攻略するのは不可能。解は無い。

目を開く。心を開く。殻を破る。近くなっていく剣戟。見える。聴こえる。感じる。後は。

―――仮説組成終了。解析一時中断。仮説再現開始。

「―――投影、続行トレース リスタート

地を蹴る。見据える先には巨兵と騎士。狙うは一点。チャンスは一度。これが駄目なら命は在らず。さあ、試行開始だ―――










〜interlude〜







Fixierung,EileSalve狙え 一斉射撃―――!」

疾走しつつ詠唱を終え、赤い魔術師から流星の如く黒の少女へ向けて飛び交う呪い。

「…Verteidigung, Invaliditat地は遮る 全ては灯火―――」

それを何事も無かったかのように少女は詠唱のみで微動だにせず無効化する。

ダメモトで発射したガンド――というかフィン――だったが、結果は見ての通り。
相手の魔力は強大で、私程度じゃ逆立ちしても敵いはしない。
それでも、まだ分は此方にある。魔術という土俵では歯が立たなくても、別方面から攻めてやれば意外と脆いのが魔術師の典型。
無論、例外は数多く居る。最早例外というか分別出来る域に達している感はあるが、基本的に自分がある時他人には無い力を得た場合、それに依存し、それ以外目に入らなくなるのは人間の性なのだ。

まあ、そんな事はこの際関係無い。事の発端は昨日の夕方。
士郎に魔術レッスンを行っていた際耳にした話だったのだが、彼がセイバーと打ち込みをしていた時、成り行きでトールとセイバーが剣を交える事になったらしい。詳しい話までは訊かなかったが、たった一度打ち合っただけで見事に2つともへし折れたとか。

そう、問題は此処にある。
今までの戦闘を見てきて、トールは接近戦を行っては来なかった。しかし、仮にも最強と謳われる剣の騎士であるセイバーと剣を交え、あろう事かイーブンに持っていかせる程の力量。それは単純に筋力の差なのかも知れない。しかし、其処まで見切りやすい太刀筋ならば、彼女は打ち合う事無く攻撃を避け、すぐに勝負を決めていただろう。
つまり、彼は異常な筋力と、多少なりとも剣術を併せ持っているという結論になる。

それなら士郎に剣を投影させて彼に持たせるのが定石ではあるのだが、余り乗り気では無かったという話も訊いてたし、昨夜の戦闘も踏まえて基本的には我流の拳法と神鳴ケラウノスで敵を倒してきたらしい。
ならば、此方に分があるのは至極当然。
後は如何にして魔術行使を最低限まで抑えさせ、一刻も早く彼女を倒すか。それだけだった。

「ふっ―――――――――!」

一足早く少女の下へ辿り着いたトールが――利き腕が左なのだろう――渾身の力を込めたストレートを繰り出す。
決まったチェックメイト。確実に捕らえた。

少女は反応し切れずただ空虚を見詰めて―――

それが、私の落ち度だった。気付いてからではもう遅い。やはり私遠坂凛は、此処一番で大ポカをやってのけた―――!








「―――え?」

其処には、誰も居なかった。

空を切る神の拳。凄まじい程の衝撃を受け揺れる木々。
少年はただ驚き、目を見開いたまま硬直してしまっている。

黒い少女が、消えた。

気配はある。すぐ近くに居る。でも何処に居るのか判らない。それは―――

「―――考えが裏目に出たね」

ただ、見えていなかっただけだった。
私から見て一直線上に居るトールの真裏。森の闇に溶け、更に少年の体で死角になったその立ち位置。
そして良く見れば、彼女の構えには見覚えがあった。

私が良く知る構え。彼の神父から教わった拳法の1つ。

「自分基準に物事考えちゃったのが運の尽きだね。勘違いしてるみたいだけど、普通使い魔が使役者より強いっていうのは在り得ないんだよ?」

その構えから繰り出される技の名は―――













―――鉄山靠―――












(あとがき)

どうもー、遅くなりましてやっとこ投稿、ヴォルです。

今回は久々という事もありまして、濃くをモットーに書いてみました。
…いつもと変わってませんかそうですか_| ̄|○

取り合えず踊り子はデカいわシヴさんは強いわで、インフレ起きないか心配です。(´・ω・)
それでは、一応今回は全キャラ満遍無く出せた…のかなぁとか思ってるヴォルでした。




管理人の感想

 最後の最後が一番意外な展開だったですね――鉄山靠。十年早いわけですね。
 今回、全編に渡って戦闘シーンだったわけですが、相変わらずの安定した文章力で素直に入り込めました。というか、ご自身でも仰ってるとおり、濃いですね。文章が。いつもより確実に濃くなっていると思いますよー。

 で、やはり次回にかけての見所は士郎の投影でしょうね。なにやらゴーレムの人を解析してるみたいですけど、はてさて。どんなビックリドッキリメカが出てくるのでしょうかねぇ……
 ところでシヴについてちっと調べてみましたよ。ふーむ、なるほどなるほど、と頷けるところがいろいろありました。
 同時にアレですね。疑問点もいろいろと……って、感想になってないんでこの辺で。


 ヴォルさんへの感想はBBSまでよろしくお願いします。


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