夢を見る。


ただ、何も無い夢。


判るのは、黒。


ただ、黒かった。


それは、何でも無い夢だった。


それは、黒い夢だった。


それは、鮮やかな夢だった。








夢を見る。


ただ、何も無い夢。


判るのは、白。


ただ、白かった。


それは、何でも無い夢だった。


それは、白い夢だった。


それは、鮮やかな夢だった。








鮮やかだった。


他の何を乗せようと、その色を崩さぬ黒。


他の何を重ねようと、その色を変える白。


ただ、鮮やかだった。





































―――目が覚める。
夢を見ていた気がする。
何だったか思い出そうとする。
しかし、こういう時に限って思い出せないものなのだ。

「まぁ、思い出せないならそれほど重要じゃなかったんだろうな」

そう口に出しながら自己完結。
元より夢とは脳が記憶を整理する過程で起こる現象。
どんなに大切な記憶でも、いつかは薄れ、消える。
そう、記憶は永遠では無いのだ。

「・・・って何でそんなファンタジーな妄想を展開してるんだ俺は」

寝起きで惚けているんだろうか。
頭を振って脳を覚醒させる。

「ふぅ。・・・よっし」

頬を両手でぴしゃりと叩き。
―――さぁ、今日も変わらず朝食を作るとしましょうか。

















〜Pray before being called for heavens〜

第3部-act.1-



















「ん、シロ兄おはよ」

かけられた声に振り向くと、白い少年が立っていた。
無論、血の気が無いとか顔色が悪いなどという意味ではない。
そう形容するのが一番的確なだけ。

「あぁ、おはよう、トール。ちゃんと寝れたか?昨日はそのー・・・ちょっとアレだったし」

我ながら主語の無い会話をしているが。

「なぁに、昨日のコトなら気にしてねェよ。オレのコトだって納得してくれたみてェだしさ。お陰様でぐっすり爆睡しました」

あっはっはと大袈裟に笑いながら返してくる。
うん、無理はしてないみたいで良かった。確かに昨日は色々ありすぎて驚いたが、こいつはいい奴だ。
理由はしっかりしたものじゃないかも知れないが、その姿に違わず素直な性格をしていると思った。・・・色んな意味で。

「そっか」

「おぅっ。で、今日の朝飯は何かな?」

「出来てからのお楽しみだ。座って待ってろ」

「ん、牛乳もらうぞー」


昨日の事があってからトールは俺の事を"シロ兄"、遠坂の事を"リン姉"と呼んでいる。
何故かセイバーはセイバーらしい。見た目の歳が自分と変わらないように見えたからだろうか。
何でそう呼ぶのか明確な理由までは言わなかったが、本人曰く

―――や、気分。―――

らしい。・・・今思えば明確どころか理由にすらなってないんじゃないのか、それは。
因みに彼の魔力だが、結局寝ても殆ど回復しなかったらしい。
いや、元より神である彼にとって"魔力"と分類できるものなのかすら判らないのだが、俺達にはこう呼ぶのが相応しい。

さて、度々出てくる"昨日の事"とは無論、トールが何者で、何処から、何の為に、如何やって来たのか、という事。
それについては後で話すとして、まず彼が何故今も俺達の家に居るのか、というところから話さねばなるまい。

事の始まりは昨日。俺達は、行き成り泣き出してしまったトールをあの後宥める事に成功―――――――




































「―――で、貴方ホントにあの"雷神"トールなの?」








・・・したのだが、あの後結局尋問―――主に遠坂が―――は続いた。時刻は朝の9時。
因みにセイバーは遠坂が直々にトールから引っぺがした。
曰く"セイバーは私のなんだから"らしい。よからぬ妄想が頭を過ぎったが知らないフリをした。
しかし本意では無いにしろ、外見自分より年下の少年を泣かせ、あやすという慣れない作業をした為か、遠坂の顔には疲れが見えていたように思えた。

「だから何度もそう言ってんじゃんか」

くどい、と言わんばかりに不満げな目を向けるトール。



―――雷神トール。
北欧神話に於いて最高神であるオーディンと大地の女神ヨルズの子であり、
どんな敵でも一撃で倒し、遠くへ投げても必ず手元へ戻るという槌"ミョルニル"を持つ。
神族の中で最も力があり元々は主神だったという説もある。
タングニョーストとタングスリースニルという二頭の牡山羊に車を引かせ天空を駆け巡り、その時に鳴り響く音が雷と言われる。
故に雷神、天候の神とも呼ばれた。



「―――で、そのトールが何で私達の家の窓ガラスから突っ込んでくるわけ?」

「や、そりゃ何つーか・・・腹減ってしょうがねェ時にこの家から美味そうな匂いがしてきたもんで、つい・・・」

そう言って苦笑いする被告。対して原告はというと、

「つい、で窓ガラス割られちゃ困るんだけど?」

あからさまに機嫌が悪い。
っていうか、そういう意味で質問したんじゃないんだけど、とか呟きながら。

「・・・はい。反省してます・・・」

その一言でしゅんと小さくなる。
まぁ、無償で直ったから俺は構わないんだけど。
何というか、表情豊かな奴だ。

「凛、空腹を侮ってはいけません。生きる為にも戦う為にも、まず食事が必要不可欠なのです」

妙に張り切って異議を申し立てるセイバー。
よくよく考えればサーヴァントである彼女に食事は不要なのである。
まぁ、そんな事言ったら命が幾つあっても足りないんだけど。

「はあ・・・まぁいいわ。質問を変えてあげる。貴方何処から来たの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

さっきまでとは一転、トールは押し黙り、表情を曇らせてしまった。

「?どうしたの?」

「・・・悪ィ。判んねェんだ」

「え?・・・判んないって」





――――――オレは何処から、如何やって、何の為にこの世界に来たのか、判らない――――――





「判るのは、オレがトールっていう神だ、ってコトだけなんだ」

「・・・何、それ」

流石に参ったのだろう、遠坂が頭を抱える。

「それって、"覚えてない"んじゃなくて、"判らない"のか?」

思わずそんな事を訊いていた。はっきり言って意味の相違は殆ど無い。
が、それでも俺はそんな質問をしていた。
それにトールは無言でこく、と頷いた。

「オレにも家族は居た。友達も居た。小さい時の記憶だってある。でも・・・それが何処だったのか、いつだったのか、判らないんだ」

本当に困ったように俯くトール。
対して遠坂は少し考えたような顔つきをしながら、

「じゃあアンタ、下手すれば自分が何者かって確信も無いのに名前だけ記憶にあるからそれを信じてるってわけ?」

彼女の質問に、翳りを見せつつも少しだけ色を取り戻したトールは、

「・・・確信っつーには程遠いかも知れんケド、こんなコトなら出来る」

そう言いながらほれ、と左腕を差し出してみせた。


と。


「あんま顔近づけっと痺れんぞ?」

「え?」

そして一言、祈るように呟いた。





――――――神鳴ケラウノス――――――





すると、トールの腕がぼんやりと蒼白く光り―――




――――――バチィッ!!――――――





「うお!?」

「なっ!?」

「きゃ!?」

行き成り発せられた光が目を覆った。
三者三様のリアクションではあったが意味は皆同じく驚きだった。
セイバーなんか一瞬で壁の方まで飛びのいてそのまま武装しそうなくらい警戒している。
その後徐々に戻ってきた視界でそれを凝視すると―――

「え・・・こ、これって・・・」

腕が、放電していた。
通常、空気中には電気は流れない。
常温の室内では、空中放電には最低1万ボルト以上の電流が必要になる。
しかし実際1万ボルトを空中放電させてもここまで大きな音はしない。
ある意味空気とは絶縁体に近いものなのだ。いや、そんな事よりも―――


――――――トールの腕は、"雷そのものを具現化"させている――――――

それを見て俺は気付いた。

―――ああ、だから白かったんだ。

気付いて、疑問が生まれた。
・・・だから?何が、だからなのだろう。


「まぁ、こんな感じ。・・・まぁ、魔術師でもこのくらいならできるヤツも居るかも知れねェし、証拠にゃならんわな」

自分の独白にツッコミを入れていた隙にフッ、と帯びていた電気が姿を消す。

「・・・わかった。信じましょう」

それを見て、遠坂が行き成りそんな事を言い出した。

「へ?」

「聞こえなかったの?私は貴方をトールだって認めるって言ったのよ」

「え、いや、何故に?」

唐突に全てを肯定されて逆に挙動不審に陥るトール。
それを見て大袈裟にふう、と溜息をつき説明を始めた。

「確かに魔術師の中にも電撃を"操る"奴は居るわ。でも貴方みたいに"持ってる"奴なんて居ない。何故だか判る?」


電撃を"操る"魔術師。
つまり魔力を使い電撃を放つ魔術師。
故にその電撃は無差別。
跳ね返されれば例え自分の放った電撃だろうとダメージを受ける。

対して電撃を"持つ"トールの場合、電流が体に走ろうともダメージは無い。
それは彼が"雷神"と呼ばれる由縁でもあり、確証だった。



                 
――――――彼は"自分自身が雷"なのだ――――――



「・・・なるほど、だが凛。確かに理にかなってはいますが、"神鳴ケラウノス"とは本来ギリシャの最高神ゼウスの武具のはずだ。何故トールであると?」

「あぁ、一説によるとね、ゼウスとトールは同一である、なんて言われてるのよ」

オーディンの子なのに前主神だったという話もそこから来ているらしい。
更に言えば、ゼウスのローマ神名はユピテル。つまりジュピター(木星)の語源。
そしてトールとは英語の木曜日(Thor's day→Thurs day)の語源でもあると。
それを踏まえると、そんな仮説が出てくるのも頷ける。

「それに貴方、家族や友達の記憶はあるんでしょう?それがトールのものなら、貴方は紛れも無い"雷神"トールじゃない」

さっきまでの剣幕は何処へ行ったのやら、何やら嬉しそうに話す遠坂。
セイバーも隣でなるほど、といった感じでこくこく頷いている。食事中以外で見るのは珍しい・・・いや、そうじゃなくて。
確かに多少の疑問はある。例えば、存在がサーヴァントに限りなく近いのだ。
ケラウノスは神話に登場する武具、つまり宝具に酷似している。
更には強大な魔力。先も述べた通り、こいつの魔力は並大抵ではない。
いくら全体5%に満たないからといって、その量は実に俺の数十倍はあるのだ。
対して、相違点もいくつかある。
逆に宝具に酷似するものを持つのなら、彼は代名詞とも言えるミョルニルを持っていなければならない。
宝具とはその英雄を象徴するものでなければならないのだから。
それに、神話に出てくるトールと今俺達の目の前に居るトールは、似ても似つかない。
まぁ、ミョルニルが彼の宝具であるのなら魔力が足りないとも考えられるし、神話と違うのは男として扱われてきたセイバーも同じか。
何にせよ、彼がトールである事に皆異論は無くなった。

「よし、話は纏まったな」

此処ぞとばかりに俺はぱん、と1つ手を叩く。

「え、・・・マジで?いいのか?その、そんなにあっさり認めちまって・・・」

「あら、認めて欲しかったから泣いてたんじゃなかったっけ?」

ニヤリとあかいあくまが本性を現す。
本当にいつか角と羽と尻尾が出てきそうだ。

「・・・っ、だ、だから泣いてねェっつってんだろーがぁ!」

がぁー、と顔を紅くしながら声を張り上げるトール。
泣いた事がそんなに悔しかったのか。

「まぁまぁ2人とも、朝っぱらから騒ぎ立てるなって」

「その通りです、凛、トール。それではご近所の迷惑になる」


そんな事は何処吹く風、遠坂はトールをからかい、トールが遠坂に反応し、セイバーと俺が仲裁に入る。
そんなやり取りに、思わず顔が綻ぶ。
こいつが本当は何者で何処から来たのか何てはっきり言って今は如何でもいい。
窓ガラスから現れた少年は、どんな奴とでもすぐ打ち解けられる、いい奴だった。




































―――そして、自分が"判らない"トールが自分自身を"理解する"まで、身寄りの無い彼を居候させる事に決まったのだった。





「さて」

そうこう回想に耽っているうちに朝食と食器の片付けを終え、洗濯に取り掛かる、そんな時。

「ねぇねぇ士郎、今週中に皆既日食があるんだって」

「え?」

朝食の後ずっとテレビに齧りついていた遠坂が突然そんな事を言い出す。
皆既日食って、あの月と太陽が重なるあれか?
そう言えば耳にする事は何度かあったが実際に見た記憶は無い気がする。

「ふむ、それはまた珍しい」

お茶を飲みながらまったりしていたセイバーも興味があるのか、触覚のような髪の毛をぴこぴこ振りながら話を聞いている。
・・・それ、動くんだな。

「うん、何でも今回のは凄い周期が長いらしくてホントに一生に一度なんてもんじゃないくらい珍しいみたい」

へぇ・・・そりゃ凄いな。
カメラのフィルムでも用意しておこう―――




―――color doesn't necessarily die and doesn't stop...―――




何処かで、唄が聞こえた。
吹き抜ける風に混じれば聴こえなくなりそうなほど、小さい呟き。
されど自分の鼓膜に張り付くようにはっきりと聞こえた、意思を持つ唄が。

「・・・トール?」

「ん?どした?」

今気付いたかのような素振りをみせる少年。
まるで、自分が唄っていた事を知らぬかのように。

「いや、今唄ってなかったか?」

「あぁ、コレか。・・・んー、良く判んね」

無意識に喉から唄が出た、なんて苦笑いを―――

「ホント、判んねェんだよ」

俺は、半分本当で半分嘘なんだ、と訳も無く思ったのだった。











〜interlude〜














「・・・皆既日食、か」

昼過ぎだというのに一向に日の差さない黒い洞窟。
纏わりつくような世界の最深に移る黒。

「いよいよ、なのだな」

黒い壁、黒い空、黒い人影。
全てが黒で統一されたその洞窟はそれでも尚鮮やかだった。

「究極は万物に存在する。それが究極の時なのだとすれば、お前も多少は思い出せ」



―――私とお前、どちらの色が鮮やかなのか。できぬなら助け舟を出してやろう―――


唇の端を吊り上げながら歪に笑うその影は




































―――pray before being called for heavens―――





































そう呟き、自分の指の腹を噛み切った。













〜interlude out〜






管理人の感想

 今回の管理人感想は act2 にまとめてー。


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