「…………」

 遠野さん達の自己紹介が無事終わって(ただのしがない彫刻家と名乗った遠野さんに、遠坂は全く納得し
ていない様子だったが爆発はしなかった)、各々が俺の作った夜食に手をつけ始めた時、俺は一つの疑念を
抱いていた。

 が、その疑念は俺だけが抱いているらしく、遠坂は油断無く遠野さんを睨みつづけるだけだしセイバーは
食事に夢中でそれ以外に気をまわしている様子もない。

 唯一シエルさんだけが何故か半挙動不審気味なのだが、完全にそう言いきるには確証が足りないので俺は
その疑念の発生点を見つめつづけていた。

 ……誰かを猫でデフォルメしたかのようなぬいぐるみを。




























                  剣は鞘と、鞘は剣とともに

 第十六話 百一匹猫アルク大行進












「……………」

 じ〜っと、そのぬいぐるみを見つめる。

 全体的にまるまっちい印象を受ける体格に、やたらと横に広い目。

 どう見たって三頭身に満たない身長に、やたらと目立つネコミミ。

 ……が、それなのに全く可愛らしい印象を受けずに、何故か小憎らしい印象を受けてしまう謎のつくり。

 何処からどう見ても、『解析』の能力をもってしても、出てくる結果は『アンノウン』。

 なのに何故だかここにいる人物達はそれを全く気にしていない様子だった(セイバーは食べ物に夢中だと
いう説もあり)。

 気づいてないだけかもしれない。遠野さんの脇に置いてあるそれは、少し注意をして見なければ気が付か
ないほど自然にそこにあるのだから。

 というかぬいぐるみ相手にむきになりつつある俺がおかしいのか……。

「ん?」

 と思っていたら、先ほどまでとそのぬいぐるみの位置や形が微妙に変わっていた。

 ちょっと思考に埋没していただけの、僅かなる時間の間に、だ。

 誰かが動かした、などと考えることなど出来ない。ということは……自分から動いた?

「? シロウ? どうしました?」

 全く夜食に手をつけてなかった俺を心配したのか、セイバーがこっちに視線を向けてくる。

 見ると遠坂も、『何やってるのよあんた』みたいな視線をこっちに向けてきている。

 が、コレはコレでチャンスだろう。

「いや、な。どうにもあのぬいぐるみが気になって……あれ?」

 二人にもそのぬいぐるみを見てもらおうと思って一瞬目を離した隙に、そのぬいぐるみは劇的に形を変え
ていた。

 先ほどまで右手が上がっていたのだが、何故か今は左手が上がっているのだ。

 気のせいなどではない。ソレが証拠にそのぬいぐるみはだらだらと脂汗を……っておい!

「汗かいてるー?!?」

 思わず指を刺して叫んでしまう。

 その一言に遠坂とセイバーはびっくりして俺を見つめ、シエルさんは頭を抱えてテーブルに突っ伏し、遠
野さんは乾いた笑み……いや、あれは現実逃避かな? とりあえずなんかかさかさになってしまった笑みを
浮かべる。

「……遠野くん。やっぱり魔術師相手に誤魔化しきるのは無理だったんですよ……」

 とりあえずなんかかくかくとした感じになってしまっている遠野さんに、絶望してしまったような口調で
シエルさんがそういう。ちなみに猫(仮)のぬいぐるみは、俺に指を刺されながらも律儀に固まったままで
ある。……だらだらと汗を流してはいるが。

「……そうですね。というかこいつを隠し切ることを考えた俺が馬鹿だったのかもなぁ……」

 何故か妙に達観したような顔をして遠野さん。が、即座にその雰囲気を打ち消してそのぬいぐるみを手に
とる。

「おーい。もういいぞ、猫アルク」

「その言葉を待ってたにゃ」

 瞬間、セイバーも遠坂も凍りついた。

 なにせ俺だってぬいぐるみと思っていた物が唐突に喋りはじめたからだ。

 そして唐突に喋り始めたソレは、遠野さんの腕の中で胸だか腹だか分からない所を張って、

「そこの青年、さっきからあちしを見ていたとはさてはあちしのみりきにメロメロかにゃ?」

 なんて奇々怪々な事をのたまった。





「真祖? 姫君?」

「そんだけ成長しても結局中身は同じかぁ!!」

 聞きなれない単語が数個出てきたので思わず呟いたら、横合いから遠坂にドロップキックを喰らった。

「あんたねー、あんた教会と手を組んだりして『淨化』をしてるんでしょう!? なんだって真祖やら姫君
やらそんな大事な事を知らないのよ!?」

 胸倉を捕まれて、がっくんがっくん揺さぶられる。別に遠坂ぐらいの腕力だったら振りほどくのも容易い
のだが、そんなことをすれば目の前の赤いあくまは本気になってかかってくる。

 だから正直に答える。

「誰も教えてくれなかったし……」

 そういうと遠坂は多少考えてから……深々と溜め息をついた。

「そっかー……。魔術師としては最早常識の一つだし……。まさか士郎と組んだ相手も士郎が真祖を知らな
いとは思わなかったんでしょうねぇ……」

 うんうん、まぁしょうがないか、と納得する遠坂。

「……私も驚きましたよ。教会からわざわざ通達されるほどの人物が、そんな基本的なことを知らないとは
……」

「まぁまぁ、先輩。こっちの世界には入ってこようと思っても簡単に入って来れるようなものじゃないし」

「自ら入ってきた志貴が言っても説得力無いにゃ」

 他の三人も三人で納得している。……俺としては非常に不本意だ。

 が、今の俺は文句の一つも言う事は出来ない。……何故なら……。

「あの……凛、シロウの顔が段々と青くなってきているのですが……」

 自身も青い顔をしながらセイバー。というか段々視界が黒くなってきたような……。

「うわ!? ちょっと士郎!? こんな簡単に落ちないでよ!?」

 いや、それ無理。だってお前さっきからずーっと胸倉掴んでるし。どんなに鍛えても、そういう所だけは
どうにもなんないものなんだぞ?

 そんな事を考えながら……。

 ドタバタな自己紹介劇は俺の意識が途切れるという形で幕を閉じたのであった……。

















 後書き

 話の展開上、アルクェイドは猫アルクとして登場させざるを得なかったんですが……。いやはや、結構難
しいもんですね、猫アルク。モチロンこれからのシリアスの展開にもずーっと彼女はあのカッコのままで出
てきます。ネタばれはまた今度になりますけど……。

 ちなみに、今回話が大幅に空いた(そのくせ短い)のは、なんか下手に大人になった志貴が掴み辛かった
からだったりします。……結局歌月十夜よりの性格になってしまったのは、単に作者の技量不足でしょうね。

 ちなみに、オフィシャルでは志貴と士郎は仲が悪いことが公認になってますが、ココでの志貴と士郎は仲
がいいです。よってこの2人は戦いませんのであしからず。



管理人の感想

 久しぶりの新作なわけですが……えー、と。ニャルクェイドですか? 猫のひとなわけですか、そうですか。
 このお話、これまでの展開からしてシリアスな部分もこれから必ず入ってくると思っているのですが……ていうか、明言されてますけど。

 猫アルクが出てきちゃった時点で、シリアスな話は相当やりづらくなると思うんだけどなぁ。なんちゅーか、猫アルクは完全なギャグキャラなわけで、彼女が絡むとどんだけシリアスな展開で進んでても、口開いたりするだけで一気に場が脱力するっていうか……展開がギャグになります(汗
 だってあの格好、あの口調ですよ? 士郎が血反吐吐いてるシーンで『大丈夫かにゃ青年。しっかりするニャりよー』とか喋って肉球ですよ? そりゃわたしゃ肉球好きですが。
 むぅ、いったいどうやってシリアスに持っていくのか……ともあれかなり難しいと思います。

 まあ……その辺りのキャラクター効果を狙い、ちゃんと目論見を持って登場させているのなら何も問題はないのですが。
 とりあえず、なんで猫アルクなのかって言うのは次回以降ですね。ほんと、どうするんだろう……とか、ちょっと心配。


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