夜。

 魔が活発になるとき。

 人が己の命を守るためにみずからに陣地に閉じこもるとき。

 闇が光を駆逐するとき。

 様々な顔を持つ夜。

 そんな夜は、俺にとっては基本的に戦いの夜だったと記憶している。




























                 剣は鞘と、鞘は剣とともに

 第13話 激突する者たち








「なんだこいつは!」

 暗闇から飛び出してきたのは影だった。……いや、影みたいな何か、だった。

 形としてはしっかりと実体を持っているようで、しかし影のようになにか頼りない。

 そしてそれは、西洋剣によく似た剣を容赦なく俺にかって振り下ろしてくる。

「まずっ!」

 その勢いに、咄嗟に身をかがめ手に持つ剣に込める力を増やす。

 夜の帳に凄まじい金属音が鳴り響く。と同時に、俺の両手、両足に凄まじい圧力が加わる。

「くっ!」

 冗談じゃない。そう思った。が後ろではアルトリアがそんな奴を二つも同時に相手にしているのだ。泣き
言や愚痴は強制的に却下していく。

 影は一瞬だけ後退すると、またも俺に向かって突進してくる。その勢いはまるで疾風のようだ。

 二度、三度、四度……。

 その勢いのまま、影は俺に向かって容赦なく剣を振り下ろしてくる。それに対して俺は防戦するのが精一
杯だった。

 というより、剣と剣を打ち合う勝負では何故か俺はコレには勝てないと漠然的に感じ取っていた。

「く、投影開始(トレース・オン)!」

 気がつけば、俺は左手で一つの武器を創りだしていた。

 投擲用ダガー。スローイングダガーとも呼ばれるもので、剣として扱うのではなく、その実飛び道具とし
て扱う特殊なダガーである。形的には投げナイフとよく似ているが、こちらは特に刃が反り返っていないの
が特徴である。当たり前のように、これには魔力加工がなされている。

 ……無論のこと、俺にはコレを扱う技術は無い。が、これを模倣した瞬間に俺は使っていた者の技術をも
模倣する。


 手首のスナップを利かせ、何処に飛ばすか相手に悟られないよう投擲する。案の定、至近距離にいる敵は
足を止めそれを弾いた。隙は、出来た。

「!!」

 裂帛の声でもあげたい所だが、それはいただけない。声を上げると確かに力は入れやすいが、その分相手
に分かりやすいほどにこちらの呼吸のリズムを教えてしまう。特に目の前の影などには、それは正しく愚策
といえる。

 が、それでも俺の剣は影の持つ剣に防がれた。

 それこそまるであらかじめそこに振り下ろされるのが分かっていたかのように。

「ちっ!」

 防がれたのならば下手に鍔迫り合いはしない。先程打ち合った瞬間、小さめの形をしている影が、その力
はなんとか俺が拮抗できるぐらいの凄まじいものだったと身をもって知ったからだ。

 弾かれた反動を利用し、後ろへ飛ぶ。

 後ろではアルトリアが戦っているのでそこまで後ろに飛ぶ事は出来ないが、一時的に距離を開けたかった。

 と、その時に同時にアルトリアもこっちに飛んできていたようで、またしても俺たちは背中合わせになる。

「シロウ、大丈夫ですか」

「とりあえずな。そっちは?」

 互いに息を乱さず、互いの安否を確認する。が、それに関してはアルトリアには愚問だろう。確かに俺に
とっては脅威だが、未だ半分は剣の英霊たる彼女にとって、これの二つぐらいでは窮地に追い込まれたりは
しない。

「……こちらは次の打ち合いで決めます。早めに援護に回るので、それまで持たせてください」

 案の定、彼女はそう頼もしいセリフを言ってくれる。が、俺だってこのまま全てをアルトリアに任せるつ
もりは毛頭ない。

「こっちも次で決める。というかこれぐらいの敵に対処できなかったらなんの為に今まで頑張ってきたんだ
か分からないからな」

 俺のセリフに、アルトリアは満足そうに頷いたようだった。

「無理はしないで。背中を頼みます」

「おう。そっちも怪我なんてしないでくれよな」

 そして再び、俺とアルトリアは互いの敵に向かっていく。

 さっき、アルトリアに向かって言ったのは嘘ではない。自分より強い敵に勝つ方法とは、それこそ戦場で
はイカサマでもしなければ勝ち目はない。が、そういうイカサマの手品だったら俺にはネタが豊富にある。

 何故ならば。

「投影開始(トレース・オン)!」

 この身はただそれだけのための魔術回路だから。

 三本を一束にして、ある剣を投影する。長い刀身をもちながら、手で握るのではなく、指と指に挟むよう
に持つ。

 黒鍵。あまり詳しく見た事はないが、見様見真似でも俺にはそこそこのものを投影できる。何しろ旅先で
これを見た事は一度や二度じゃない。

 それをまるで躊躇無く投げる。

 元々これは打ち合うための剣ではなく、投げるための剣だ。長剣の類いで投擲用というのも無茶苦茶な話
だが、今回ばかりは都合がいい。

 更に言うならば、これは直撃をしたとしても『物理的な』攻撃力はあまりない。が、この剣はそれよりも
霊基的構造にダメージを与えるものだから、この影のようなものにも有効と判断して投擲したのだ。

「投影開始(トレース・オン)」

 投擲と同時に再び黒鍵を投影する。今度は前進しながらそれを投擲する。

「投影開始(トレース・オン)」

 魔力に余裕を持たせること無く、躊躇せず次の投影を行なう。それもまた、バカの一つ覚えみたいに黒鍵
だ。まるで突撃するかのような前進で三度黒鍵を投擲する。

 影はその剣を脅威と判断しているのか、それを全て当たらないようにかわしている。が、それでできる隙
こそが俺の狙うべき所なのだ。

「投影開始(トレース・オン)!」

 またしても黒鍵を投影し、投げつける。……実を言えばもう魔力には余裕はない。これだけ短期間に投影
を連発すればそりゃあガス欠にもなる。今の俺は直列乾電池と同じなのだ。

 至近距離で投げた黒鍵は流石にかわさず、影は持った剣でそれを弾く。それを確認するよりも前に俺は両
足に全力を込め前に突撃する!

 この一瞬のみが、目の前にいる相手に一太刀を浴びせられる隙だ! これを外せば魔力が尽きかけている
俺には防戦しか残されない。

 が、それなのに、俺の剣はあっさりと、影の持つ剣に弾かれてしまった。

「―――――――」

 振り下ろされてくる黒い剣。何故か見た事があるような禍々しさをもつそれをみながら俺は――――――



























 最後の呪文を唱えていた。

「投影開始(トレース・オン)!!」

 本当に僅か一瞬の差だった。

 振り下ろされてくる黒い剣よりも先に、俺の目の前には影を巻き込んで地面に埋まってしまっているそれ
が落ちてきたのだ。

 バーサーカーが使っていた斧剣。

 使おうと思うのもバカバカしいほどでかいそれは、空中に投影した分の落下速度もプラスされ完全に影を
押し潰していた。それでも……。

「また貴方は無茶をする……」

 勝てたというにはおこがましい、ギリギリの生存だった事に変わりはない。

 ちょっと不機嫌そうにこっちを見てくるアルトリアにひらひらと手を振って、俺たちは互いの健在を確か
めあっていた。



























 後書き
 むむう、ちょっと描写が不本意。もうちょっと緊迫感を持たせたいです。
 ちなみに注釈。士郎君、いつでも投影したものをすぐに持てるように左手はほとんど剣に添えているだけ
です。しかし……物投げてばっかりですね……うちの士郎君は(汗)
 ちなみに、アルトリアさんサイドの戦闘描写がないのは仕様です。




管理人の感想

 おお、士郎の戦い方が面白い。投影連発で数の力押し。固有結界ではないけど、なんだか弓矢っぽい使いかたしてますね、投影を。思わずほほー、となりました。
 それにしても旅先でいろんな修羅場をくぐったわりには、士郎まだまだ普通ですね。なんか切り札でも隠してたりするんでしょうか。


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