ベティベールの姿が遠くなっていく。

 アーサー王として、最後の責務をはたした自分の体から力が消えていく。

 意識が深い泥の中へ落ちていく。

 永い……永い眠りになりそうだ。と、自分自身でもよく分かっている。

 その時に、最後に見えたのは、行く度の戦場ではなく衛宮家での暖かい団欒の風景であった――――。



























                   剣は鞘と、鞘は剣とともに
 第六話 Fate/retarn night(U)
                               作:銀きつね
















「私があのまま、伝説の通りに死ななかった理由の一つがこれです」

 そういって、セイバーは俺にとって良く見慣れた物を背後から取り出した。

 十七年前俺の命を守ってくれた、そしてあの聖杯戦争の時に彼女に返した聖剣の鞘を。

「エクスカリバーの鞘?」

「はい」

 俺の問いに、セイバーは律儀に頷き返す。

 見間違えるはずもない。あの聖杯戦争のとき、ばらばらになっていたこれを再構成して渡したのは俺自身
だし、あの時ほどの投影は本当にもう出来ないと思うほどの出来だったからだ。

 あ、そうか。あの時返したからセイバーが帰った時に一緒になって持って行っちゃったわけか。

 それでセイバーは死なずにすんだわけか。

「エクスカリバーを返した私の身体は、最早どのような処置を施そうとしても生き延びられる物ではありま
せんでした。それはこの鞘においても同然です」

 が、セイバーはそう言ってそれを否定する。

 というか……カムランにおいてセイバーは何処まで深い傷を受けたのだろう?

「ですが、この鞘は『全て遠き理想郷(アヴァロン)』。死ぬはずであるこの身は、妖精郷に連れて行かれる
はずでした……。私が貴方の夢を見なければ、ですが」

「?」

 セイバーの言っていることが良くわからないので、首を傾げる。

 なんだって俺の夢を見たらこっちに来たというのだろう?

 そんな俺の心境が伝わったのか、元々質問を受ける事は前提だったのか。特に遅延無くセイバーは次の言
葉を切り出す。

「全て遠き理想郷(アヴァロン)、これの本当の能力は死する時に持ち主の本当の理想郷へ連れて行ってくれ
ることだったのです。……アーサー王の伝説として、かつて存在し未来に復活するという一文は多分これの
ことが歪曲して伝わったせいではないかと」

 ………えーと……つまり……。

「今この場に居るセイバーはカムランの後で生き延びたセイバー……つまりはアーサー王になる訳か?」

 とりあえず俺はそう理解したけど、セイバーはゆっくりと首を振った。

「いいえ。先程も言ったとおり、あの時の私の身体は鞘を使っても治癒できないほどでした。ですから、あ
の時に『アーサー王としての』私の生を終わらせ、それまで眠っていた『アルトリアとしての』生を再びス
タートさせたわけです」

 ………。

「なんか詭弁っぽくないか? それ?」

 頭の上にハテナマークが飛び回っているのを実感しながら俺はそう口にする。いや、セイバーが帰ってき
てくれたことにたいしては純粋に嬉しいんだけど……。

「いいえ。詭弁などではありません。『勝利すべき黄金の剣(カリバーン)』を抜いたときから、『アルト
リア』としての生は眠りにつき、私は『アーサー王』としての生を生きてきた訳ですから。簡単にいいます
とね、シロウ」

 そこでセイバーは、これでもかってぐらい悪戯が成功したみたいな顔でこう続けた。

「私は二つの生を持っていたんですよ」






「二つの生のうち、一つを失った身体は再生にかける時間が少なくなり、結果として『アルトリア』として
の私は助かりました。……ですが、『アーサー王』としての私も私である事には間違いないことです。です
から、結果として、聖杯戦争で呼ばれた私と『アルトリア』としての私が会うことによっておこる世界の矛
盾を起こさないために私自身が目覚めたのは聖杯戦争が終わってから三年も後のことでしたが」

 そう言って貰えるとよく分かったんだけど……。

「セイバー、一つだけわからない事がある」

 そう、一つだけ分からない。

「……なんですか? シロウ」

 こちらの真剣な表情に感化されたのか、セイバーの表情も硬くなる。……いや……。

「セイバーは『セイバー』でいいのか? なんか話を聞く限りじゃぁ『セイバー』って呼んでいいのか、て
思ってきて……」

 あ、セイバーが呆然としている。

「……シロウ、何故その程度の事でそこまで真剣になるんですか?」

 で、次の瞬間には不敵な笑みを浮かべる。でも……。

「その程度の事ってそんなに軽い事か? だって恋人の呼び名だぞ。大事なことだろ?」

 次の瞬間の俺のセリフに、彼女は真っ赤になって硬直してしまった。

「? おーいセイバー? いや、セイバーって呼んでいいのか〜?」

 硬直していた彼女の前でひらひらと手を振る。が、眼は開いてるはずなのに全く持って反応してくれない。

「い……」

「い?」

 しばらくしてから、彼女は小さな声でそう呟いた。

「いきなりそういう事を言わないでください……。私だって心の準備という物が……」

 ぽそぽそと、真っ赤になって俯いたまま喋る。が、俺としては大事な事だ。なんたって……。

「だって、さ。名前が言えなきゃ七年前の返答が出来ないじゃないか」

 そうだ。別れ際、『セイバー』が言ったあのセリフに俺はまだ返答を返してない。























 後書き
 めちゃなオリジナル設定炸裂。……自分ではこれでも無理なく設定した方だと思うんですけど……、稚拙
な自分じゃこれが限界ですし。
 というかまだまだセイバーさんの名前が出てこない……。
 ちなみに、セイバーさんはアヴァロンの世界の中でで千五百年という長い年月を過ごしていたということ
です。
 平行世界からの攻撃すら防ぐのならば、出てくることさえなければ世界の修正力も受けない、という自己
解釈ですが。
 ……殆ど寝てただろうというのが解釈。だって一回死んでるんですもん。あ、それならば1500年仮死状態
って言ったほうが良いのかな?





管理人の感想

 ひゃっほう! 確かにめちゃな設定だぜい!
 聖杯戦争に参加したセイバーは受肉したセイバーじゃなくて、魂(みたいなの)が現界してるだけだからアヴァロンをカムランの戦場に持って帰るのは無理だぜい、とかなんとか突っ込もうと思えば突っ込めるんですが、それは野暮ってもんでしょうな、この展開。
 ずばり恋人発言してしまう士郎に照れ照れなセイバーがYES、だね。とか言いたい気分でいっぱいなので野暮なことは言うまいぞ言うまいぞ。

 まあ、それはそれとしてものすごいところで次回に引いてますね。てなわけで次回らぶ決定ってなところで続く。

 あ、ついでに誤字報告しとこう。
 >ベティベール → ベディヴィエール
 ですね。


 銀きつねさんへの感想はBBSまでよろしくお願いします。


投稿作品TOPにモドル