この厨房に立つのも久しぶりである。

 何しろ五年は留守にしていたのだから。が、だからといって料理には何の支障も無い。

 冷蔵庫の中身を確認し、料理する物を決定する。

 ここには今までセイバーが一人で住んでいたのか、あまり物がなかったがそれでも一食ぐらいは充分に作
れる。

 手早く事を始める俺の後ろ、居間では二人の会話が始まっていた。




















   剣は鞘と、鞘は剣とともに
 第二話 衛宮邸昼食事情
                               作:銀きつね










「しかし凛、貴女も人が悪い。シロウが帰ってきていたのならば連絡をくれれば良い物を」

 心なしか不機嫌な顔でセイバー。それでもしっかりお茶の入った湯のみを両手で持ってお茶をすする。

「ごめんね、士郎の髪の事をいじってたら連絡する暇がなかったのよ」

 一方の凛のほうにも言い分がある。

 白くなってしまった士郎の髪への赤の色の固着に随分と手間取ってしまったのだ。……髪は専門外も良い
所ではあったが簡単に済むだろうと踏んでいた分予想外であった。

「髪? シロウの髪は前と変わらないように見えますが?」

 その凛のセリフに、セイバーは視線を厨房で動き回る士郎に向ける。その頭髪は、別れた頃と寸分違わぬ
赤である。

 そのセイバーのセリフに、凛は僅かに顔をしかめる。

「凛?」

「……あの馬鹿、白髪だったのよ」

 一瞬、セイバーは何を言われたのか分からなかった。

 白髪? 赤い外套に白髪? それではまるで……。

「……凛」

「いえ、違うわ。士郎はアーチャーじゃない。確かに似てる要素はあるけど士郎は士郎よ」

 殆どアーチャーは士郎だといってるようなものだが、凛は確信していた。

 あれは衛宮士郎であり、英霊エミヤではない、と。

 しばし無言の空間が流れる。厨房の料理の音だけが響くが、別段不快ではない。

 と、凛が思っていたらきゅぅぅ、と変な音が聞こえた。

「?」

 何かが擦れるような、しかし何かこう切ない響きであった。

 例えるならば……おあずけをくらう犬みたいな雰囲気が……。って……。

「〜〜〜〜〜〜」

 その凛の目の前には、顔を真っ赤にして俯かせている騎士王が一人。

 深刻な雰囲気はそれだけで消し飛んでしまった。いや……ここにこの三人がいる以上、そんなものは必要
ないのかもしれないと凛は思った。





 お昼は好評だった、と見て良いんだろうか?

 いつものように(ソレが七年も前の事でも)こくこく頷きながら食べるセイバーと、一つ食べる事に段々
と顔をしかめていく遠坂。

 ……後者の方は多分俺の料理の腕について文句を言いたい故ではと思う。

 聖杯戦争の時も、なにかと遠坂とは料理の腕でぶつかりあったことがある。が、五年の放浪は俺に凄まじ
い料理スキルをも取得させたのだ。

 元々俺自身自惚れではないが、それなりに料理の腕はあると思う。故に、放浪先では出来た物を取るより
も原材料を手に入れることが中心だった。安いし。

 それで結局自分の料理の腕がダイレクトに自分自身の活力に響いてくる。

 ……聖杯戦争の時に、お昼を食べたセイバーが兵糧攻めとはかくも恐ろしいものといっていたがそれをわ
が身でしっかりと受け取る形になってしまっていたのだ。

 んで、結局そのお昼の事態は遠坂の琴線に触れたらしく、『あったまきた! 夕飯はわたしが作るからね
! 遠坂の名にかけて負けないんだから!!』などと名指しで言ってきた。

 どーでもいいんだが遠坂、人を指差すのは行儀がよろしくないと思う。あと料理に家名を持ち出すのもど
うかと。ついでに言うと衛宮の名には誇りを持ってるけど遠坂の名に比べるとどうしようもないんだが。

 なんてことを考えながら、今俺は厨房で洗い物をしている。セイバーらしく、厨房はあちこち綺麗に整頓
されており、使う上での支障は全く無い。……いや、厨房に限らず屋敷のあちこちはぴかぴかだ。

 なんでもセイバー曰く、鍛錬と掃除とアルバイトぐらいしか暇潰しがなかったとのこと。

 それでもかの虎が、ちびっこあくまを引き連れて時々セイバーの料理を目当てに吶喊してくる事があった
らしい。……というか藤ねぇ、まだココに入り浸ってやがったのか。

 ……それにイリヤ。帰ってきたのなら、今日の夜にでも連絡しておかないと。

 五年前。旅に出る直前、桜と藤ねぇは最後まで頑強に(藤ねぇはあんまり本気っぽくなかった)反対して
いた。その中で、イリヤだけはすんなりと俺のことを認めてくれたのである。

 ……そう思っていたのは俺だけだった、と後に知る。

 出発するその日、誰にも見送られないように朝早くに家を出た時に、イリヤは唐突に俺に抱きついてきた。

 なんでここにイリヤが、と思うより早く、イリヤは涙を浮かべて俺をみて、嗚咽ではなく見送りの言葉を
口にした。

 ……あの時は正直、自分の馬鹿さ加減に頭がきた。

 遠坂はそのうち時計塔にいく。それよりも早く、俺は放浪の旅に出る。

 イリヤを置いて。

 ……早く連絡してやらないとな。

 なんてことを考えていたら、気がつけば皿洗いは終わっていた。……無意識で終わってるその現状を平然
と受け止めている俺。突き詰めて考えると存在意義について深く考えてしまいそうでとりあえずは頭を振っ
ておく。

 と、そこで衛宮邸のインターフォンが鳴り響いた。

「?」と思っていると、セイバーが特に不思議がる事もない様子で玄関に向かった。遠坂と視線を合わせ、
二人して玄関に向かう。

「こんにちわ、セイバーさん。お久しぶりですね」

「はい、シエルもお元気そうでなによりです」

 そこでは、俺の知らない女性と会話しているセイバーがいた。

















 後書き
 さーて、最後に出てきた謎の女性、話に絡んでくるのでしょうか(笑)。
 まぁばればれですけどね……というか名前出てますし。
 モチロンこの人は、月姫にも登場したあの人ですよぉ。





管理人の感想

 うわぁい、カレーの王女様だー。なんだなんだ、セイバーにはシエルが絡んでいるわけですか?
 ふむぅ……セイバーの現界にシエルが絡んでいるとなると、ことは教会絡みってことになるんでしょうかね。つーか、丘の上の言峰教会の人がシエルになってるとか?
 ここは是非、知得留先生に教えていただきたいところなのだがどうか。

 ところでイリヤがまだ生きているのかどうか、とても気になるところですね。士郎が旅に出るときは生きてたとしても、あれから5年も経っているわけですから。
 あと藤ねえ。もういい加減、三十路だろうと言ってみる。嫁に行ってないのか? とか言ってみる。


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