士郎が目を覚ますと、これまでに無い光景がそこにあった。
 少女の顔が、どアップでそこにある。赤い瞳が士郎の眼光を射抜き、クスリと、目の前の少女は妖艶に笑って見せた。
 動かない、体が鉛のように重く感じる。まるで、金縛りのようだと、士郎は思った。
 少女が目を瞑り、徐々にその顔が近づいていく。
 ドクンドクンと、士郎の心臓は早鐘のように動悸している。「やめろ」と声を出そうとしても、喉が凍りついたかのように言葉が紡ぎ出せない。
 互いの唇が重なろうとした次の瞬間―――

 ずどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおん!!!

 ―――冗談でも過剰でもなく、カミナリが直撃したかのような轟音が轟き、少女はこめかみに竹刀の直撃を受けて転がり、壁に衝突してようやく止まった。
 同時に、士郎の体も自由を取り戻した。慌てて体を起こした。残念なようなそうでないような複雑な心境だが、とにかく今は現状の確認を優先することにした。
 士郎の右側に、竹刀を手にして仁王立ちしているセイバー。そして部屋のすみあたりに、こめかみをおさえてぴくぴくと震えてるワイシャツに下着姿と随分、刺激的な姿をした金髪の少女。
 ようするに、少女が士郎にキスしようとしたのをセイバーが渾身の一撃で阻止したということなのだろうと理解した。

 「お…おぅ……痛い」
 「何をしているのですかセシル!シロウの様子が気になって来てみれば…」

 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴという文字が、なぜかセイバーの背後に見えているような気がした。
 くわえて、セイバーはなぜか完全武装状態。手にもつ聖剣が竹刀に変わっているのはご愛嬌という奴なのだろう。

 「だ…だって、士郎君の寝顔可愛いんだもん。つい、悪戯したくなっちゃって」
 「だってもついもへちまもありません!!寝顔が可愛ければ誰にでも悪戯としてキスをするのですかあなたは!!」
 「うん!」
 「キッパシ言うんじゃありません!!その根性、千数百年ぶりに叩きなおしてあげます!!」

 セイバーの竹刀が、これ以上に無いくらいの武器と化している。そもそも先ほどの一撃だって、普通の人間が喰らえば間違いなく頭が砕け、脳が飛び出ていることだろう。
 ソレを喰らってぴんぴんしている辺り、少女も只者ではなかった。不適に笑い、セイバーを挑発するかのようにその視線を向けている。

 「フフフ、やってみるがいいわセイバー!!鬼ごっこで私に勝てたことのない貴女に私が捕まえられる?」
 「良いでしょう。その言葉、後悔させて上げます!!」

 そして、閃光と化した二人は士郎の部屋の襖を突き破り外へと飛び出していった。
 あとには、ボー然とした士郎だけが取り残されていた。襖は壊れ、少女がぶつかったところなんてひびが入って、ちょっとしたクレーターっぽいものが出来上がっていたり。
 士郎は天井を仰いだ。そこに、グッジョブと親指を立てている衛宮切嗣の姿を見たような気がした。

 「ゴット…俺なんかしましたか?」






 





 BLOOD HUNTER/SWORD OF MAGICIAN
              作・緋琴


 ・第五話『つかの間の休息―――そして邂逅』





 士郎が居間につくと、そこに居るのは新聞を読んでいる四季と、士郎の顔を見て安心したのか胸をなでおろすフィネアの姿。
 おかしいと、士郎は思った。何しろいつもいるべきメンバーがここにいないのである。藤村大河に間桐桜、そして遠坂凛の姿が無い。セイバーは…まだあの少女を追いかけているのだろうと考えて、士郎はため息をついていた。

 「なぁ…遠坂達は?」
 「嬢ちゃん達なら学校に行ったぜ。今日が終業式で、明日から春休みなんだろ?」

 そこまで言われて、士郎は思い出したかのように時計を見た。現在、9時5分前―――完全に遅刻である。

 「うわ!寝過ごした!!早く着替えていかないと―――」
 「ド阿呆。てめぇは昨日どれだけ酷い怪我で担ぎ込まれたかわかってんのか?今日一日ぐらい大人しくしてやがれ」

 慌てて居間から出て行こうとした士郎に、四季がぴしゃりと言い放つ。
 四季の言うとおり、士郎の傷は一応完治してはいるが、しばらく安静にしていた方がいいのは当然だ。
 士郎も反論しようとはするものの、四季のいたって正論な言葉に何も言い返せなかった。

 「わかったよ…今日一日は大人しくしてる」
 「おうよ。わかればいいんだよ。…たく、あの嬢ちゃんがしっかり見張っておいてくれなんて言う理由がよくわかったぜ。危なっかしいったらありゃしねぇよ、お前は」

 わざとらしくため息をつき、そんな事を言って、彼はテーブルの上においてあった食事に指を差した。

 「喰え。わざわざ遠坂の嬢ちゃんが作っていったんだからな」
 「遠坂が?」

 そう答えて、士郎はその料理に視線を移した。
 確かに、ソレは凛がよく作る朝食のメニューであった。その皿の下に、「今日一日は大人しくしてなさい。無茶は絶対にしないように」と、凛の書置きがあって士郎は苦笑した。
 嬉しいと、正直にそう思う。士郎は食事の前に座って「いただきます」と言ってから、その料理を口に運んだ。
 おいしい。素直にそう思えるその味が、今の士郎には無性に嬉しく感じることが出来た。

 「おぉ、ちゃんと起きて食べてるね。関心関心」

 居間に今朝の少女が入ってくる。黒色のワンピースを着て、少女は楽しそうに士郎の隣に座った。
 一方、士郎は今朝のことがあったがために気まずいことこの上なかった。相手は美少女だ。緊張するなという方が無理である。

 「えっと、あの―――」
 「あぁ、今朝はごめんね。ちょっとした茶目っ気だから、流してくれるとうれしいなぁ…なんて」

 顔を真っ赤にして、しどろもどろに言う士郎に、少女はばつが悪そうに謝ってくる。まぁ、健全な年頃の男にワイシャツ一枚の下着姿で迫るなど、やられたらやられたで困るものである。

 「いや、ソレよりもこめかみの方は大丈夫…なのか?」

 心配したような士郎の言葉ももっともである。竹刀とはいえ、セイバーの全力の突きをこめかみに受けているのだ。普通の人間なら即死である。
 だが、士郎の言葉に少女はけろっとした顔で―――

 「大丈夫だよ慣れてるし。昔はセイバーによくやって、そのたびに全力で攻撃されてたから」

 ―――なんてのたまってケラケラと笑ってみせる。
 …それもそれで大いに問題があるような気がしないでもなかったが、士郎はあえて口に出すことはしなかった。
 やがて、セイバーが居間に入ってくるがそこはかとなくぐったりとした様子だった。

 「大丈夫か、セイバー?」
 「えぇ、大丈夫です四季。よもや未だに彼女に足の速さで勝てないとは思いもよりませんでした」

 ソレほどまでに悔しいのか、セイバーは沈み込んだ状態でいつもの場所に座る。

 「それにしても、随分と早くなったよねセイバー。危うく捕まるところだったよ」
 「英霊の身になったというのに、いまだ貴女に追いつけないとは…情けない」
 「気にすること無いんじゃないかな。私、一応千年以上生きてる吸血鬼なんだし」

 仲のいい友人のようなやり取りが眼前に展開されて、今朝の剣幕でしか二人を知らない士郎は原状が把握できないでいた。

 「あぁ、忘れていました。シロウ、彼女はセシル・デュナミス。私の生前の友人です」
 「生前の友人って…」

 それってとんでもなく長生きしているのではないだろうかと、士郎は思ったが、先ほどの二人の会話を思い出して納得した。
 二人は先ほどの騒ぎの話で和気藹々としている。セイバーがこれほど笑ったり怒ったり、あまつさえ拗ねているところなど、士郎ははじめて見た。
 セシルは笑い、セイバーをからかったりして楽しそうでもある。
 そんな二人を見て、士郎は微笑ましく思っていた。自分が守りたいものを再度認識したような気さえした。
 誰かの笑顔を守りたい。ソレが、衛宮士郎が正義の味方を目指す、一番の理由ではないだろうか?
 凛の作った料理を口に運びながら、そんな事を考えていた―――










 



 





 汚されていく。そんな朦朧とした意識の中で、ソレだけは理解できていた。
 ユサユサと揺らされる。獣のような荒い息。欲望に血走った眼。それらはどれもが恐怖の対象でしかなかった。
 犯されている。
 汚れていく。
 自分という意識がどんどん希薄になっていく。
 ずぶりと、首に牙を穿たれる。どくどくと血を吸われ、犯されながら吸血される。
 涙が流れた。つらくて苦しくて、それでも皆のためだと我慢して、必死に耐え続けた。
 そうして、次に目覚めたときは―――少女は人ではなくなっていた。





 まどろみのなかから開放されて、ラミアは身を起こした。一糸纏わぬ姿で辺りを見回して、リッパーが居なくなっていることに気付く。
 一言文句を言ってやろうと思っていたのだが、その本人が居ないため彼女は諦めた。
 脱ぎ捨てられていた衣類を手にとって、彼女はソレを着てから部屋を出た。
 気分が悪い。嫌な夢を見たせいか彼女はこの上なく不機嫌だったが、顔には相変わらず表情が浮かばない。無理矢理作れば表情も出すことが出来るが、それはきっと本心ではないだろう。
 嫌な夢を見たのはリッパーのせいだと決め付けて、彼女はずかずかとアインツベルンの城を歩き回る。
 彼女が見たのは昔の夢だ。昔の―――まだ感情が表に出せていたときの頃の夢。
 唐突に、その歩みが止まる。

 「いつから…私は感情を出せなくなったんだろう」

 ポツリと呟いた声は、誰にも届くことなく、長い廊下に哀しく響いた。それは随分と昔だったようにも思えるし、つい最近だったような気さえもする。いくら考えても…思い出せなかった。
 結局、彼女はその考えをやめて当初の目的を果たそうとした。
 再び歩みを進めようとしたラミアだったが、ソレよりも先にリッパーの方が姿を現す方が先だった。

 「おう、目が醒めたか?とりあえず飯作っといたから醒めないうちに―――」

 バキャッ!!

 皆まで言わさず、ラミアの右ストレートがリッパーの顔面に直撃した。それはもう、プロボクサー顔負けの切れのあり、破壊力のある一撃だった。
 ドップラー効果をともないながら、リッパーが倒れていく。それに見向きもせずにラミアは歩き始めた。

 「散歩してくる。朝ごはんいらないから」

 そう言って、彼女はアインツベルンの城を後にした。残ったのは、一人むなしく涙を流している、シュールな姿のリッパーであった。







 ラミアの姿は新都にあった。ただ何をするわけでもなく、ふらふらとあっちに行ったりこっちに行ったりと動き回っている。
 やることなど無い。ただ、本当に気晴らしにここに来ているだけのようなものだった。
 嫌な夢を見たことも原因だとは思っている。だけど、それ以上にナニカが心の中で引っかかって、余計に苛立ちを覚えた。
 がやがやと、多くの人々が交差する。そんな中で、自分だけが世界に取り残されたかのような錯覚を覚える。
 ため息をついて、そんな錯覚を打ち払って再び歩き始めた。
 どれくらい歩いていただろうか、ふと、ある光景が目に飛び込んできた。
 小さな男の子が泣いている。親とはぐれたのだろうか?と思考して、自然とその子供に歩み寄っていた。

 「どうしたの?」

 言いなれていた言葉は、随分とすんなり言葉になった。
 子供はラミアの方を振り向き、ぐずりながらも「お母さんと…はぐれた」と理由を言葉にしていた。
 自分の予想通りの理由だと思いながら、彼女は子供の手を取った。

 「私も探してあげる。だから…泣かないで」

 いくぶんか優しさの篭った言葉。ソレを聞いて安心したのか、子供は涙を拭きながら頷く。
 あいも変わらず、ラミアの顔には感情は浮かばない。言葉に感情が篭っていただけでも、彼女にとっては精一杯だった。
 さて、問題はどう探すかだが―――地道に聞いていくしかないだろうなと、彼女は思う。
 非効率な方法だと自分でも思いはしたが、今の彼女にはそれぐらいしか方法が無かった。さすがに、こんな人込みの中で魔術を使うわけにもいかない。…もっとも、虚無の扱いと瞬間移動に特化した魔術師の彼女に、特定の人物を探し当てる魔術が使えたかどうかは疑問だが…。
 ここで立ち止まっていても仕方ないので、子供の手を引いて歩き始めた。ただ自分の感覚を頼りに、こっちだと思う方向に足を進めていく。
 どこにもいない。泣いている男の子をなだめながら、彼女は必死に探している。
 そして、しばらくして重大なことに気づく。

 ―――ここ…どこ?

 思いっきり見慣れない場所にいることに気づき、思わず足をとめてしまう。
 あたりは住宅街。先ほどまで新都にいたはずなのに、まったく知らない場所まで移動してしまったらしい。
 さて、表面上はともかくとして、ラミアは焦った。自分だけが迷ったならまだいいのだが、今はこの男の子もいる。
 親とはぐれて泣いているというのに、この上さらに迷子になってしまったなどといってしまうと、泣き止んだというのにまた泣き始めてしまう。

 ―――ど…どうしよう!?

 外面上はまったく変わらないものの、内心はおろおろと戸惑っていた。あたりをきょろきょろと見回してみるが、人もいないし、やっぱり知っている場所でもない。
 ラミア・ルヴィート。彼女はどうしようもなく方向オンチらしい。
 いったん落ち着いて、もう一度あたりを見回してみる。
 すると、人影がこちらに向かってくるのが見える。
 それは、果たして不幸だったのか幸運だったのか、そこに、衛宮士郎とセイバーの姿がそこにあった。
 要するに―――ばったりと鉢合わせしてしまい、ラミアは助かったのか助かってないのか微妙な展開に頭を抱えたくなったのだった―――

















 「あ」

 唐突に、士郎の間の抜けた声が台所から聞こえてきたのはその時だった。
 士郎が覗き込んでいるのは冷蔵庫。その中には、見事なほどに食材がなくなっていた。
 これでは、とても昼食の分に足りない。

 「どうしたのですか?」
 「あぁ、昼食の材料が足らなくて…」

 そこまで紡いで、セイバーは愕然とした表情になった。例えるなら見てはいけないものを見てしまったかのような表情。その視線は―――士郎と同じく中身が寂しくなった冷蔵庫に注がれていた。
 まぁ、セイバーにとって大問題なのは、士郎自身も理解しているのだが…。

 「シロウ、これは一大事だ。早速材料を調達に行かねば!!」
 「いや、それはそうなんだけどセイバー。買い物には俺が行くよ」

 振り向き走り出そうとしたセイバーの動きがピタリと止まる。一瞬の間をおいて、やたらと怖い笑顔を浮かべたセイバーがギギギと首を軋ませて、シロウにその顔を向ける。嫌な予感その1。
 居間の四季たちが見合わせたように皆で耳を塞ぐ。…嫌な予感その2。
 セイバーの背景には、なにやらどアップのライオン見えたり見えなかったり。……嫌な予感その3。

 「何を考えているのですかシロウ貴方はぁぁぁぁぁぁぁあああ!」

 ガァーと言わんばかりの顔で、これ以上に無いくらいの怒声を上げるセイバー。背景にライオンを背負ってかなりご立腹な様子。
 怒った顔もかわいいなぁ…。などと考えていたのは、士郎だけの秘密である。

 「いや、ほら。せっかくだから体を動かしておきたいんだ。なんだかおちつかないしさ」
 「昨日の怪我を考えてください。ただでさえ士郎は無茶ばかりするのですから、こういったときにでも休まなければつりあいません」

 士郎の言葉に、セイバーはぴしゃりと言い放って説教を開始する。
 台所で説教が開始されている中、居間では四季達がため息をつきつつその光景を眺めていた。
 いつものことだとは思いはしているのだが…、今回ばかりはセイバーの意見に賛同するほか無い気持ちだった。
 昨日の大怪我を見ているだけに、四季もフィネアもセイバーの説教をとめる気にはならなかった。彼が運ばれたときのセイバーの顔は、今思い出しても痛々しいものだった。

 「なんか、セイバーとにてるかも。士郎君」
 「あん?どこがだよ?」
 「なんていうか在り方というか…、性格の根元の部分かな?」

 そんな曖昧な言葉を漏らして、セシルは苦笑しながら二人のやり取りを見ている。そんな彼女の顔を、フィネアは不思議そうな顔で見ていた。
 感じるのだ。彼女の心を。楽しさや嬉しさ。ただそれ以上に―――不安や戸惑い。
 その思いの意味を、フィネアはまだ気付くことが出来ない。それも当然かもしれない。フィネアは、セイバーがアーサー王だという事を知らないのだから―――
 やがてセシルは何かを思いついたかのように立ち上がり、パンパンと手を叩く。

 「はいはい、セイバーも落ちついて。別に良いじゃないの、一応傷は塞いであるんだからさ」
 「し…しかし」
 「そんなに心配なら、セイバーも一緒についていけばいいじゃない」

 ピクリと、セイバーが反応した。セシルはセイバーに手招きをして居間から連れ出すと小声で言葉を紡ぎだした。

 「セイバーも行けば問題ないでしょう?」
 「そ…それはそうですが…」
 「それに、せっかく買い物デートが出来るんだから、素直に二人で行っちゃいなさいよ」

 セシルの言ったデートという単語を聞いた途端、セイバーの顔がこれ以上にないくらい真っ赤になる。まるで茹蛸のようだと思いながら、セシルは笑いをこらえていた。
 なにしろ、セイバーのそういう表情を見たのは随分久しぶりだったからだ。

 「で…デ…デ―――!?」
 「モノのついでに、士郎君を落としちゃいなよ」

 クスクスと笑いながらセシルは言うが、セイバーは首を横に振った。

 「シロウにはリンが居るのです。私は、二人を見守るだけで十分なのですから―――」
 「甘い―――甘いわセイバー!!」

 セイバーの言葉をさえぎり、セシルはずびしっと彼女を指差した。

 「貴女が士郎君に気があるのは私にだってわかる!そんな事を言っても、私には貴女が逃げているようにしか見えないわ!!」
 「しかし、士郎は凛と付き合って―――」
 「付き合っていようと、勝負は相手が結婚するまでわからない!恋愛って言うのは戦いや戦争と同じなのよ!!」

 ピシャアン!!と、そこはかとなくセイバーの心の中で雷が音を立てて落ちたような気がした。
 そうだ。この身は騎士王。ならば、恋愛とはいえ負けを認めて逃げるのか?彼女は恋愛は戦いと同じだと言った。ならば―――この身が逃げることはありえない!!
 そんな事を思考して、セイバーは決意するのだが、その実、セシルに巧く言いくるめられたことになど気付きもしなかった。

 「ありがとうセシル。おかげで目が醒めた」
 「別に良いって。さっ、早く士郎君と買い物に行ってらっしゃい」
 「えぇ」

 気合の篭った返事をしながら、セイバーは居間へ戻り、士郎に条件として自分を連れて行くことを了承させてから、彼らは買い物に向かった。
 その光景を、やたらと楽しそうに見ているセシルは、二人が出て行ったあとで怪しい笑みを浮かべていた。そう…例えるなら、何か悪巧みをしている時のマジカルアンバーとか、腹黒いことを考えている時のカレーだとか、どう拷問しようかと考えているときの鬼妹だとか―――。

 「…ふふ。今日の修羅場が楽しみね」

 にやりと壮絶な笑みを浮かべた彼女の言葉は、しっかりと四季やフィネアの耳にも届いていた。

 ―――第二の琥珀がいる…。

 背中に嫌な汗をかきながら、四季は引き攣った顔で、そんな考えが脳裏をよぎったのだった―――。





 マウント深山商店街にたどり着いた士郎とセイバーは、あれこれと材料を買い揃えていた。
 人数が一気に増えたため、食費も馬鹿にならないのだが、凛と四季に関してはちゃんと食費を入れてくれるのだからありがたい限りだ。まぁ、それでも赤字だったりするのは大河とセイバーの大食いにも原因があるわけだが…。
 士郎はいろいろな場所を転々として、少しでも安い場所で食材を買おうと必死だ。
 一方、セイバーはというと、セシルの言う「買い物デート」という言葉が頭に浮かんで、とても落ち着ける状態ではなかった。
 無論、士郎にその気がないのはセイバーとてわかってはいるのだが、どうしてもそう意識してしまう自分がいる。

 「今思うと…うまくセシルに言いくるめられてしまったのですね。情けない」

 ため息をつき、今ごろは何か悪巧みでもしているであろう友人の顔が脳裏に浮かぶ。
 いたずらに関しては天才的な才能を発揮した彼女だ。…何かある、絶対。
 そんなことを思考しながら、セイバーは周囲を油断なく見据える。今は士郎の身の安全を守ることを考えて、セシルの言葉を一時、頭から締め出した。

 「ふぅ、これでしばらくは大丈夫だろう。そろそろ帰ろうか、セイバー」
 「えぇ、そうですね。四季たちも待っているでしょう」

 言葉を交え、二人は買い物袋を持って帰路につく。
 がやがやとにぎわう街中。それは平和の情景で、その中に、士郎とセイバーの二人がいた。
 セイバーにとって、士郎は家族で、士郎にとっても、やっぱりセイバーは家族だった。
 それ以上でもなく、それ以下でもなく、きっと士郎にとっては、セイバーも家族以上にも以下にもならない。
 今、彼にとって特別なのは、遠坂凛以外にはいない。今も、この先も―――。

 ―――わかっていた。…わかっていたのだ。シロウは誰にでも優しくて、自分の思いを曲げるようなことはしない人間だと。リンを選んだ今、私に勝ち目などないというのに。

 知らずとため息が漏れる。最近の自分は、どこかおかしいような気がする。
 以前はこんなことなかったというのに、今はこんなにも、シロウのことを考える…。

 セイバーは士郎と会話しながら、心中はそんなことを考えていた。
 士郎はそんなことに気づきもせずに、いつもの笑みを浮かべている。
 しばらくして、士郎は視線を前に向け、ぴたりとその動きを止めた。
 そこに―――淡いグリーンの長髪をした、赤い瞳の女性がそこに佇んでいる。
 ラミア・ルヴィート。昨日、士郎に重傷を負わせた張本人!!

 「お前―――!!」

 士郎が、驚いたような声をあげる。セイバーも、凛から特徴を聞いたため、すぐにこの女性がラミアだと気づく。
 セイバーは今にも切り捨てんとばかりに殺気をはらませる。だというのに、そのさっきを向けられてる当の本人は―――。

 「あ、士郎君…こんにちわ」

 控えめに手をあげて、のんきに挨拶したりする。
 そんな彼女の手を握る男の子に気づき、セイバーは殺気を霧散させる。
 どうやら一般人がいるようだったので、今ここで斬りかかる訳にも行かなくなった。

 「お姉ちゃん、このお兄ちゃんたちと知り合いなの?」

 おびえた様子で、男の子はラミアに聞いてくる。
 セイバーの殺気を無意識に感じ取ってしまったのだろう。セイバーから隠れるようにラミアの後ろに回りこむ。

 「ええ。偶然一度会ったことのある、偶然お互い名前を知っているだけの―――あかの他人」

 ―――どんな説明だ!!ソレ!!?

 士郎とセイバーは心の中で奇しくも同じ突込みを入れていた。
 人の説明に、そんな遠まわしないやみを言うなよ!などと士郎は思ったのだが、ラミアはそんなこと気にせずさらに言葉を続けた。

 「だけど、信頼できる人だと思うよ。私なんかよりもずっと」

 感情のない能面な顔で、それでも、暖かさを感じさせる声で、彼女は言う。
 子供の頭を不器用に撫でて、子供もそれで落ち着いているようだった。
 士郎は、そんな光景を目の当たりにして戸惑っていた。本当に、目の前の女性が、昨日自分を殺そうとした人物なのかと。子供をなだめているその姿は、昨日までの姿とまるで違って、ただの感情の乏しい、人のいい女性にしか見えなかった。

 「ねぇ、この子の母親を探してるんだけど…悪いけど手伝ってくれないかな」
 「え、…いいけど」
 「シ、シロウ?」

 思わずいつものように言葉を返してしまった士郎に、セイバーが驚いたように声を上げた。
 たしかに昨日、士郎は彼女に殺されかけた。だけど、彼女の言葉に嘘は感じられないし、それでなくとも、この男の子は母親に会いたがってる。
 彼女を手伝う理由は、今はそれで十分だと、士郎には思えた。

 「彼女は嘘をついたり、だまし討ちするような奴じゃないよ。なんとなくだけど、そんな感じがするんだ」
 「…ハァ。わかりました。ですが、くれぐれも油断はしないように。いいですね!」
 「わかってるよ」

 士郎の言葉に、セイバーはあきらめたようにため息をつきながら釘をさしておく。
 そんな彼女の言葉に、士郎は苦笑しながら答える。
 こうして、士郎とセイバーとラミアの三人で、母親探しが始まったのだった。














 思いのほか、すぐに男の子の母親は見つかった。
 男の子は「ありがとう」と感謝の言葉を三人に伝え、母親も安心したようで、何度も頭を下げて子供をつれて去っていった。
 そして今、士郎とセイバーはラミアに連れられ、喫茶店に足を運んでいた。
 最初は断ったのだが、ラミアの「どうしてもお礼がしたいから」との言葉をうけて、しぶしぶと付き合うこととなった。
 そもそも、士郎、セイバーとラミアは敵同士である。こうして紅茶を飲んでいることが、とてつもなく違和感として感じてしまう。

 「今日は本当にありがとう。本当は敵同士だから、こんなことしちゃいけないんだろうけど、助けられたんだからお礼はしないとね。ここの料金、私がおごるよ」

 そういいながら、彼女は軽く頭を下げる。
 本当に―――それは純粋な感謝の言葉だった。士郎とセイバーは互いに顔を見合わせ、困ったようにほほをぽりぽりと掻いた。
 母親を探している最中も、彼女はこちらに何か仕掛けるわけでもなく、ただ純粋に母親を探そうと必死になっていた。
 だから、士郎にはわからなかった。なぜ彼女が―――リッパーと一緒に行動し、あまつさえ、自分を殺そうとしたのかを。

 「なぁ、ひとつ…聞いていいかな?」
 「ん…いいよ。何?」
 「なんで…、昨日俺を殺そうとしたんだ?」

 一瞬の沈黙。だが、それもすぐにラミアが打ち破って、静かに「正義の味方だから」と言葉にした。
 ただ一言。それだけが、彼女にとっては十分すぎる理由だった。
 かつて、その理由で士郎を殺そうとした人物を、セイバーは知っている。
 英霊エミヤ。エミヤシロウの慣れの果て。士郎のあるべき未来のひとつ。
 そんな彼と―――どこか、彼女は似ている。
 そう、セイバーも感じた。

 「私もひとつ聞いてもいい?」
 「あぁ」
 「なんで―――正義の味方になろうって思ったの?」

 それは率直で、純粋な問いかけ。
 まるで幼い子供が、自分の知らないものを見つけたときに親に聞くかのような、―――そんな問いかけだった。

 「誓いだから」
 「誓い?」

 オウム返しにラミアが言葉を発する。それに言葉もなく頷き、士郎はさらに言葉を続けた。

 「そう…誓い。俺の恩人に対する誓い。あんたの夢は俺が実現させるって、あの時に誓った」

 そう、ソレは衛宮切嗣に言った言葉。
 10のうち、確実に助けられる9を拾い、1を切り捨てる。10すべてを救えない。
 納得できない。だからあの時、士郎は言ったのだ。誓ったのだ。
 それなら、―――俺が切嗣の理想を継ぐのだと。切嗣のなれなかった、10のうち10を救う正義の味方になるのだと。

 「でも、それは借り物の理想じゃなくて、俺自身が、本当に追い求めるものだから」

 彼の言葉に、まったく迷いはない。
 その様子を見て、「そっか」と口にした彼女は、紅茶をもてあそぶようにカップを回している。

 「迷いはない?」
 「あぁ」
 「後悔はしない?」
 「もちろん」
 「例えその道が、欺瞞や裏切りに満ちているとしても?」
 「それでも―――俺はこの道を進んでいきたい」

 一片の迷いもなく、一片の偽りもなく、士郎はラミアの問いかけに答える。
 まるで、過去の自分を見ているかのような錯覚。今、ラミアが感じているのはソレだ。
 靄のかかったように、磨り減った過去の記憶に、彼と同じ言葉をいったような気がする。
 誰かの笑顔が守れればいいと思っていた。
 後悔はしないと思っていた。
 裏切られても、自分は大丈夫だと、そう思っていたころが、確かに自分にもあったはずだった。
 しかし、結果として、彼女は裏切りに耐えられなかった。

 「そっか」

 紅茶を飲む。それから彼女は、静かに目を閉じて、それから再び目をあけた。

 「私もね―――士郎君みたいに思ってた。迷わないって思ってた。後悔なんてしないと思ってた。誰かの笑顔を守れるなら、裏切られたってかまわないって、そう思ってた。だけどね、私は―――耐えられなかった」

 そこで一旦、彼女は言葉を切った。士郎とセイバーは口をはさまず、ただ彼女の言葉に耳を傾けていた。

 「私はね、誰も救えなかった。救ったと思い込んでいただけで、勝手に自己満足に浸って、…結局、私は多くの人を巻き込んでしまった。多分―――私は、君に自分を重ねてしまってるんだと思う」
 「それじゃあ…俺を殺そうとしたのは―――」
 「そうだね…今思えば、八つ当たりなのかな。君のことも考えないで、君は私じゃないのに、勝手に君に自分を重ねて―――殺そうとした」

 すっと、ラミアは頭を下げた。

 「ごめんね。謝ってすむことじゃないけど、本当にごめんね。自分の八つ当たりで―――君に大怪我をさせた」

 昨日の夜から、彼女はずっと考えていた。どうして、自分は彼を殺そうとして、あまつさえ、そのことを不快に思ってしまっていたのか―――。
 彼が正義の味方だから。ソレも確かに、彼女の中で彼を殺そうとした理由にはなるだろう。だが、ソレは違う気がしたのだ。とってつけた言い訳のような気がして、ずっと考えた。
 そして気がついたのは、子供の親を探しているとき。
 自分は、ラミア・ルヴィートは、衛宮士郎に自分を重ねているのだと。そして、衛宮士郎は衛宮士郎であって、ラミア・ルヴィートではないということ。いくら、根元が似ている。そっくりだとしても、彼と自分は違うのだということを。
 そんな些細なことに気づかない自分が、この上なく恨めしい。
 思い浮かんだのは、遠坂凛という少女の顔。
 悲しい顔。そして、ラミアを睨み付けたときの、親の仇を見るかのような鋭い視線。その視線を受けるのが、ひどく…心を締め付けた。士郎には家族と呼べる人たちがいる。士郎が死ねば、その家族が悲しむことなど目に見えている。自分は―――自分の身勝手で、彼を殺そうとして、彼の家族を悲しませるところだった。それが、彼を殺そうとした自分への不快感。

 「本当に―――ごめんなさい」

 頭を下げたまま、自分のズボンの生地をぎゅっと握り締めるラミア。
 非は自分にある。謝ったところで、許してはもらえないことは、彼女とてわかっている。しかし、これだけは言っておかねばならなかった。

 「そんなに頭下げなくても、…えっと、ほら、俺はこうして生きてるんだし…」

 しどろもどろになりながらも、士郎は言葉をつむぐ。その横でセイバーがむっとした表情になったが士郎は気づかない。
 そのセイバーの顔は、『なんで女の人にはそう甘いのですかシロウ!?』なんて語っている。
 一方、予想外の言葉をかけられたラミアは表面上は変わらなかったが、心中ではずいぶん驚いていた。
 罵られると思っていた。いや、殴られていたかもしれない。そのくらいの覚悟はあった。

 「…怒らないの?」
 「そうだな。君の気持ちもわからないでもないんだ。えぇっと…詳しくはいえないけど、前も似たような経験があるから。正義の味方を目指していたから、『お前の正義は偽善だ』って徹底的に言われてね、殺されかけたことが」

 その言葉に、ラミアは驚く。
 士郎の言っていることは、もちろんアーチャーの時のことだ。あの決闘のとき、士郎はアーチャーの心情を聞いた。
 だから、きっとソレに近いものを、彼女も自分にもったのではないだろうか?と、そう考える。

 「やさしいね。士郎君は。それに…強い」
 「そうかな?」
 「そうだよ。私なんかよりよっぽど」

 あらためて、自分との違いを思い知らされる。
 もし―――自分が士郎のように、自分の理想を否定されたら…『お前の理想は偽善だ』なんていわれたら、今の彼のように、迷いもなく自分の信じた道をいけるだろうか?
 多分、言えない。どこか後ろめたさが残って、きっと言葉にするのに躊躇ってしまう。
 だけど、彼にソレはなかった。
 思考して、彼女は改めて思ってしまった。
 この少年を殺したくないと―――自分のかなえることのできなかった夢を、彼の望む理想に届くのではないのか?
 そう思ってしまう。

 「『次に会うときは―――確実に殺してあげるから』」

 その言葉を聞いて、士郎はギョッとした。セイバーはわずかに腰を浮かし、いつでも迎撃できる態勢をとる。ところが、ラミアから帰ってきたのは苦笑だ。

 「昨日の宣告、おもいきりたがえちゃったね。ごめんね二人とも、驚かせてしまって」

 その言葉を聞いて、士郎はほっと胸をなでおろし、セイバーも一応は席についた。もっとも、警戒心は一向に薄れてはいなかったが。
 そのセイバーの様子を見て、当然か、と彼女は思う。
 事実上、ラミアと士郎たちは敵同士ということなのだから。

 「手を引いて…と言っても、引く気はないんだよね?」
 「あぁ」
 「そっか。そういうだろうと思った」

 ラミアは席を立つ、それから士郎の方を向きながら、ぎこちなく、作った笑みを浮かべる。

 「それなら士郎君。次に合うときは私と闘って欲しい。そして―――」

 ―――私に答えを見出させて欲しい。今の自分が正しいのかどうかを―――

 その言葉は、紡ぐことなく飲み込まれる。
 わずかにかぶりを振って、「ごめん、忘れて」と言って彼女は喫茶店の勘定を済ませて去っていった。
 その後姿を、士郎とセイバーは見送っていた。

 「彼女は―――アーチャーに…似ていますね」
 「セイバーもか。…俺もそう思う」

 ひどく、彼女はアーチャーに似ている。士郎もセイバーも、同じ感想を抱いていた。
 もはや、ラミアの姿は見えない。しばらくしてから、二人も自らの帰路についたのだった。










 まだ日は高い位置にあり、士郎とセイバーの二人はお互いしゃべりもせずに衛宮低の前に着いた。
 遅くなってしまったので、急いで料理を作る必要がある。この時間なら、すでに遠坂達も帰ってきている時間だ。

 「ずいぶん遅くなってしまいましたね」
 「そうだな。急がないと」

 セイバーの言葉に答えながら、士郎は玄関に手をかける。

 「ただい…」

 ガラッと玄関をあけ、言葉を上げようとした口が止まった。もうこれ以上になく完璧に。隣にいるセイバーも、完璧に硬直した。
 だってそこに―――赤いオーラを撒き散らし、見たら人が死んでしまうかのような恐ろしい形相で、バーサーカー以上の威圧感を放出しているアカイアクマがそこにいるのだから。

 「あんたたち何こんなときに買い物デート何ぞしてるのよコンチクショー!!」
 「べぶらっ!!!?」

 この世のものとは思えない絶叫とともに、大量のガンドが放出されて士郎はたまらず吹っ飛んだ!
 もちろん、セイバーにガンドなんて効かないので被害をこうむったのは士郎のみである。

 「シ…シロウ!?」
 「お…俺が何をしたぁぁぁぁあああ!?」
 「えぇいうっさい黙れ!!」

 意識を失いかけていた士郎に、トドメと言わんばかりに凛のガンドが直撃して今度こそ士郎の意識は闇の中に沈む。
 哀れ士郎。そんな言葉が、その光景を傍観していた四季とフィネアの脳裏を掠めた。
 一方、事の元凶であるセシルは面白おかしくその光景を傍観するのだった。









 ここに―――伽藍の堂という場所がある。
 都心から離れた、住宅地とも工場地帯ともいえない、なんとも半端な場所。
 ソレはまさしく、廃墟というにふさわしいものだった。
 その場所を知る人物は極めて少ない。何しろそこは、魔術師の、それも封印指定をうけた一流の魔術師の住居なのだから。
 ミス・オレンジ。橙色の魔術師。傷んだ赤色。
 さまざまな名で呼ばれる彼女の名は、青崎燈子。
 その彼女の憮然とした視線の先に、一人の男がいる。長い白髪。温和そうな顔立ちの、皺一つない端正な顔。

 「では、これは報酬だ。私はこれで失礼する」

 そういって、男は金の入った封筒をデスクの上に置き、応接間である場所から出て行く。
 その後姿を見送り、青崎燈子はため息をついた。

 「いいのかトーコ。アイツ、間違いなく外れてるぜ。そういう感じだ」

 先ほどからソファーに座り込んでいる着物の少女が、興味なさそうに声を上げる。
 両義式。ソレが少女の名だ。

 「たしかに。だが、客人は客人だからな。そう無下にもできんさ。一応、知らないな仲でもないのでな」

 紫煙をすいながら、燈子はあの男の事を考えようとして、どうでもいいかとすぐに打ち切る。
 知り合いといえど、二、三度会ったことのある程度。思い出すような感慨深い事などない。

 「そう。まぁ俺には関係ないけどな。だけどなトーコ」
 「ん? なんだ式?」

 式は燈子を睨み付ける。

 「金が入ったんだから、幹也に給料出せよ。じゃないと、いいかげんアイツが飢え死にする」

 噴出した。くすくすと、静かに爆笑する燈子と、憮然とした表情の式。
 何がおかしい。そう問いただしそうな顔を、今の式はしていた。

 「安心しろ式。いくらなんでも、お前の未来の夫を飢え死にはさせんさ」
 「―――ッ!!」

 顔がゆでたこのように真っ赤になった式は、苛立たしげに立ち上がって部屋から出て行く。
 途中、黒桐幹也と式の会話が聞こえ、その後で、話題の本人がコーヒーを持って不思議そうな顔を出した。
 あぁ、ずいぶんとからかいがいのある奴になったものだと、燈子は少女に対して思った。

 「あの…所長。いったい式と何を話していたんですか?」
 「あぁ、それか。あとで本人にでも聞いてみるといい」

 笑いを堪えながら、青崎燈子はタバコを口に含んだ。















 後書き

 つ…疲れたー!!
 今回の話が一番疲れました!!
 ラミアと士郎、喫茶店で会話!これが一番しんどかった!!
 会話の内容がこれで大丈夫なのかどうか…うわー心配だ!!

もうここら辺、本当に頭がテンパッてました。冗談抜きでどうしようか考えに考えたっす。
 …うーむ、やっぱりSSって難しい。
 なんだかセシルはアルクェイドと琥珀さんをたして2でわったような性格に。
 いい味出してるから…まぁいいかな。と自己満足。(ぉ
 ではでは、今回はこの辺で。





管理人の感想

 ふむ、なるほどね。誰かのために吸血されて吸血鬼になったわけですね、ラミアさん。
 わりといい人っぽいのですが、どうも単純ではなさそう。とりあえず謎の人ではなくなってきましたね。
 なんですが、やっぱりキャラがどうにも掴みづらい……っていうか、個性が薄いような気がするわけです。それというのも士郎に対する態度が二転三転しているからなのだろうと思います。

 それともう一つ、士郎たち影薄いな、と。質・量共に比重が少ない気がするのですよ。
 基本的にラミアさんが目立っているおかげか、この作品での士郎たちに対するテーマが見えてこない。アーチャーとラミアさんを比較して問題提起するにしても、それはラミアさんに対するテーマであって士郎たちに対するテーマではないような気がするのです。これ、UBW後の話ですから、その辺りはわりと解決済みかな、と思ってしまうのです。

 とまあ、ここまで読んだ上での私の感想。ここから先を読ませていただいて、思わずのけぞるような展開になるのを期待してます。


 緋琴さんへの感想はBBSまでよろしくお願いします。


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