女の子は一人、ただただ剣を振り続けていた。
 誰とも話さず、歳相応に遊ぶようなこともなく、剣を振るにはあまりにも幼すぎる女の子は、ただそれだけしかやることがないかのように、ひたすらに剣を振り続けた。

 ―――ねぇ、なんでいつも剣ばかり振るってるの?

 そう言葉を呟いたのは、長い金の髪をした女の子だった。
 その瞳の色は藍色。剣を振り続ける少女は翠の瞳。
 翠の瞳の少女は、剣を振るいながら答える。

 ―――それが、自分の今やるべきことだから。

 幼い瞳に、決意があった。
 ソレを感じた藍色の瞳の少女は、悲しそうに視線を伏せる。

 ―――なんだか哀しいね、ソレ。

 翠の瞳の少女には友達がいなかった。ただ独りで剣を振るい続けて、誰とも遊ばず、誰とも子供らしい会話をしない。
 そんなことに何の意味があるのだろう。
 誰も友達すらいないで、ただ独りで剣を鍛えることが、どれだけ哀しいか。友達と遊ぶ事を知らない少女が、どれだけ寂しいか。

 ―――うん。決めた!

 藍色の瞳の少女は、嬉しそうに笑う。それに疑問をもった翠の瞳の少女は、不思議そうに少女を見た。

 ―――これからは、私が貴女の友達になる。どんなことがあっても、私は貴女だけの味方だから!

 笑顔を浮かべて、藍色の瞳の少女はてを差し出した。ソレを戸惑いながら手に取った。
 ソレが後に王となる少女と、後に魔術師となる少女の出会いだった。









 BLOOD HUNTER/SWORD OF MAGICIAN
              作・緋琴


 ・第四話『感じる心』




 「それでは、留守の方をよろしくお願いしますよ四季」

 そう伝えて、セイバーは買い物に出かけていった。四季とフィネアはその後姿を見送りながら、居間に戻っていく。
 四季が衛宮家に居候を始めてからはや三日が過ぎようとしていた。あれから特に襲撃されることもなく、いたって平和だ。
 幸い、四季自身が料理することができるので、士郎への負担が減ったことはプラスに働いているらしい。
 もっとも、士郎の料理を食べる機会が減ってしまったことに関しては、セイバーにとっては忌々しき自体だったようではあるが、四季の料理が美味しかったのですっかり気にしなくなっていた。

 「コレもひとえに、琥珀に料理習ってたおかげだな」

 ポツリと呟いた四季の言葉に、不思議そうな顔で煎餅を頬張るフィネア。
 琥珀の味には遠く及ばないものの、それでも人並み以上に作れるようになっていたのは幸運であろう。
 まぁそれでも、凛や士郎の作る料理に比べるといくぶんか負けてはいるのだが…。

 「今日のセイバー、なんか変だった」
 「あぁ?そうか?」
 「うん。なんか心の中がもやもやとしてて…なんだかおちつかない感じ」

 そう答えて、フィネアは再び煎餅をほおばる。そんな彼女を四季はため息をついて、気だるげに見る。
 
 「まるで、心が読めてるみたいなものいいだな」
 「うん。読めるとは違うと思うけど、なんとなくわかっちゃう感じかな」

 なるほど…と、四季は納得して横になった。
 あの日、リッパーが放った一撃は、英霊であるセイバーですら察知できていなかった攻撃だった。ソレに気付いた少女に、四季はいささか疑問を持っていた。何しろ、フィネアが叫んだのは「心臓喰らい(ハートイーター)が動き出す前だったのだから、第三者の視点から見た四季にとっては不思議でたまらなかったのだが、ようやく合点がいった。
 一方、その当人は煎餅を頬張りながらテレビに釘付けになっている。
 まるで、三十路を過ぎた主婦みたいだと邪推しながら、四季は横になった状態で煎餅を頬張った。

 「………今なんかすっごく失礼なこと考えなかった、四季?」

 ジト目でフィネアに睨まれて、四季はため息をつきながら紅茶を喉に流し込むのだった。







 セイバーも買い物という行為には随分となれたものだ。
 なにしろ、士郎と凛が学校に行っている間、セイバー一人しかいないのだから、おのずと彼女が買い物をする回数が増える。
 今では随分と顔を覚えられて、マウント深山商店街の方々とちょっとした世間話までこなせるようになっていた。
 そんな彼女も、今は公園で買い物袋をベンチ脇に置いて、ぼんやりと空を眺めていた。
 いつもはそのまま帰宅するのだが、懐かしい夢を見たせいか心が落ち着かない。

 「彼女がああ言わなければ、私に友達はできなかったんですよね」

 苦笑しながら、友人の事を考えて思わずそんな言葉がこぼれる。
 おせっかいで、わがままで、いじわるで、ソレでいて優しかった友人の顔が思い浮かんでくる。
 王になってから会うことはなくなってしまったが、それでもいい友人だった。

 「―――ねぇ、なんでいつも剣ばかり振るっているの?」

 ざぁっと風が吹いて、あの頃と同じ声がセイバーの耳に届く。
 心が熱くなるような、それでいてあの頃を確認するかのようなニュアンスを含めた口ぶりに、自然とセイバーの頬が緩んでしまった。

 「それが、自分の今やるべきことだから―――」

 セイバーは一言一句、あの頃と同じ台詞を紡ぐ。彼女の後ろで、誰かがクスリと笑ったような気がした。

 「なんだか哀しいね、ソレ」

 声の主は、まるで踊るようにセイバーの視界に姿を現した。ふわりと舞う、金の長髪。病的なまでに白い肌と、―――以前とは違うルビーのような赤い瞳―――。
 それが、少女が人間ではなくなってしまった証。だけど、少女は以前と変わらないその表情、その声で―――

 「うん。決めた!これからは、私が貴女の友達になる。どんなことがあっても、私は貴女だけの味方だから!」

 ―――楽しそうに、それでいて嬉しそうに、その少女はあの記憶の言葉を再現した。
 まるでセイバーと少女だけが、別の空間にいるかのような錯覚。音もなく、二人以外の誰も存在せず、そこはまさしく二人だけの世界だった。

 「千年と数百年ぶりだね、アルトリア」
 「もうそんなになるのですね。本当に―――お久しぶりですね、セシル」

 なつかしむように、互いに言葉を紡ぐ。それから、セシルと呼ばれた少女はセイバーを抱きしめた。
 一瞬あっけに取られたセイバーだったが、耳元で嗚咽が聞こえて、そのまま背中と頭に手を回した。

 「ごめ…。少し、このまま…で、いさせて」

 ぽろぽろと大粒の涙がこぼれて、それ以上、嗚咽交じりの言葉も続かない。

 ―――千五百年―――

 この邂逅は、本当に奇跡なのだろう。
 本来なら、ありえることはなかったであろう再開。
 一人の少女は王として生涯を終え、もう一人の少女は吸血鬼にかまれて人間としての生涯を終えた。
 それゆえに奇跡。この二人の邂逅は、数億分の一にも満たない確率での出来事。

 「おちつきましたか?」
 「…うん」

 どれほどそうしていただろうか。セイバーの言葉に答えて、セシルはゆっくりと身を離した。目は泣いたせいか赤くなっているものの、今は笑顔を浮かべている。

 「それにしても驚きました。この時代にあなたと会えるとは…」
 「私も驚いたよ。でも、嬉しいな。もう会えないと思ってたから」

 そう答えながら、セシルはベンチ脇の買い物袋を見てクスリと笑う。

 「それにしても、王様が買い物袋を持って歩いてる姿って新鮮なんだけど」
 「か、からかわないでください!」

 顔を赤く染めて叫ぶセイバーとは裏腹に、セシルは笑みを浮かべたままベンチ脇においてあった買い物袋を手に取った。

 「手伝ってあげる。いこう、アルトリア」
 「えぇ。それでは、お願いします」

 二人の姿が、公園から消える。誰もいなくなった公園に、一つの影がぼんやりと浮かんだ。
 ソレは人のようで、しばらくするとはっきりとした姿となって認識できるようになった。
 淡いグリーンの長髪を首の後ろ辺りで綺麗にまとめ、真紅の瞳が静かな光をたたえていた。肩口と腹部が露出する赤色のタートルネックに黒色のジーンズの姿の女性。
 表情はなく、能面のようなその女性は先ほどまでセイバーのいた場所をじっと見つめている。
 誰もいなくなった公園で、女性はただ独りで佇んでいた。まるで、そこにしか居場所がないかのように、女性は動こうとしなかった。

 「騎士王がまさか女性だったなんて…ちょっと意外」

 静かな呟き。その声は誰に届くこともなく、女性はセイバーの座っていたベンチを指で撫でた。

 「そうか。並みの英霊じゃあねぇと思っていたが、まさかアーサー王ったぁな」

 後ろから聞こえてくる声に、女性は振り向きもせずにため息をつく。女性の後ろには、金の短髪に赤い瞳をした青年が佇んでいた。

 「気配を消して女の後ろに立つの、悪趣味だよ。リッパー」
 「そういうなよ。迎えに来てやったんだからありがたく思いやがれラミア」

 ラミアと呼ばれた女性の嫌味に、リッパーはぶっきらぼうに言う。
 しかし、ラミアは何の反応も示さないので、彼はため息をつきながら言葉を続けた。

 「それで、アイツは?」
 「少し準備してからこっちに来るって言ってた。それまでに拠点になる場所を一つ見繕って欲しいって」
 「あぁ、それなら大丈夫だ。抜かりはねェよ」

 ソレを聞いて、ラミアはリッパーに目もくれず歩みを進め始めた。それにギョッとした彼は、慌てて彼女に言葉を投げかけた。

 「お、おい!どこ行くんだ!!」
 「…あいさつ。後で迎えに来て」

 それだけ言うと、彼女は公園から姿を消した。
 そう、文字通り姿が霞みのように消えたのだ。ちょっとした転移の術だろうと、リッパーは納得して、それから盛大にため息をついた。

 「…頼むから騒ぎを大きくすんなよ、ラミア」

 どこか抜けている自分の同僚に毒づき、リッパーはもたれかかるようにベンチに腰掛けるのだった。一ついえることは…彼も随分と苦労人のようだということだ。







 「ここが、アルトリアがすんでる家かぁ。おっきいねぇ」
 「正確には違いますが、まぁほとんどそんなもんでしょう」

 子供のようにはしゃぎながら言う眼前の少女に、セイバーは苦笑を漏らしながら答える。事実、彼女のマスターである遠坂凛はほとんどここで寝泊りしているのだから、すんでる家も同然だろう。

 「それと、私以外の人がいる場合、アルトリアと呼ぶのはやめて、セイバーと呼んでくださいね」
 「OK〜OK〜!真名は隠すもんだもんね、お姉さんにまっかせなさい!!」

 思いっきり有頂天になってる友人の姿を見て、わずかばかり不安に襲われるセイバー。まぁ、傍目から見てもうっかり口を滑らせてしまいそうな雰囲気を漂わせているのだから仕方のないことだろう。
 まぁ、ばれる時はばれるものだと諦めて、セイバーは彼女を衛宮の屋敷にあげた。

 「おっじゃましま〜す。あ、居間ってこっちだよね?」

 靴を乱雑に脱ぎ捨てて、セシルはとたとたと走りながら居間の目前まで行き―――そして、その嫌悪の眼差しを居間に向けていた。
 不思議そうに、セイバーはセシルの隣にまで行くと、その理由に思い当たった。
 彼女が視線を向ける先には、白髪の男―――遠野四季が居たからだ。

 「なんであなたがこんなところに居るの、『アカシャの蛇』さん」
 「開口一番にソレかよ。おいセイバー、この嬢ちゃん誰だよ」

 セシルの視線は四季に、四季の視線はセイバーへ。四季の表情は明らかに不機嫌そうだった。そのとなりで、四季とセシルの視線に不安を感じ取ってしまったのか、フィネアはフィネアでおろおろとしている。
 ため息。もうこれ以上になく疲れが溜まったかのようなため息は、その空間に重々しく響き渡った。

 「セシル。その言い方は失礼でしょう!相手が誰であれ、いきなり威嚇するのは止めなさい!」
 「う!…はい、ごめんなさい」

 セイバーに怒られたことがよっぽどショックなのか、セシルはしゅんと項垂れてしまう。そして、セイバーは四季に向き直る。

 「彼女はセシル・デュナミス。私の生前の友人です」
 「生前の友人って―――何年生きてんだよその嬢ちゃん」

 彼女の説明に、四季は冷や汗流しながら呆然とセシルを見た。一方、その視線に気付いたセシルはというと、「いやん」とかぬかしながら両頬に手を置いて顔を真っ赤にしてたりする。

 「…………またやかましいのが一人増えたのか」
 「ムカッ!!ソレどういう意味よ!!」
 「あ、ああああああの、おちついて」

 このままだと言い争いが起きてしまうと察知したフィネアが慌てて仲裁に入る。現に、フィネアはそれぞれの心を感じ取っている。セシルからははっきりとした怒りを、四季からはわずかな怒りと困っているかのような心を、セイバーは…もはや呆れ果ててものも言えないらしいぐらい、こころが諦めに満ちているようだ。
 そんなおろおろとしている彼女にセシルは視線をやって、小さなため息をついてから再び四季に視線を向けた。

 「まぁいいわ。この子に免じて不問にしてあげる。あんた名前は?」
 「四季…遠野四季だ」
 「んじゃ、君は?」
 「えっと…フィネアです」

 気難しそうに名乗る四季と、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして呟くように名乗るフィネア。それで満足したのか、セシルは台所に向かっていく。

 「セシル?」
 「お昼まだなんでしょみんな。さっきのお詫びといっちゃあなんだけど、お昼作ってあげる」

 楽しみにしててよね。と言葉を紡いでから、彼女は楽しそうに台所へと消えていった。
 その光景を見送って、苦笑しながらセイバーはテーブルについた。
 なんだかんだとあったようだが、元気そうで何よりだと、いまさらながらセイバーは思った。

 「すみません。私の友人が失礼な事を」
 「別に気にしちゃいねぇよ。あながち…嬢ちゃんがああ言ったのも無理はねェしな」

 そういいながら、四季は緑茶をすすって台所に居るセシルに視線を向けた。
 そこには楽しそうに料理の下準備をしている彼女の姿がある。

 「いい友達じゃねェか。大事にしろよ、セイバー」
 「言われるまでもありません」

 四季の言葉に、セイバーは柔らかな笑みを浮かべて答える。それに四季も「違いねぇ」と答えて緑茶を一気に飲み干した。

 「俺にはな、大事な親友…つぅかな、血は繋がっちゃいないが、大事な弟が居る。親友でもあり、弟でもあるっと言ったところか」

 唐突に始まった、四季の独白。それに、セイバーとフィネアはただ、静かに耳を傾けていた。
 
 「昔からの付き合いでな、アイツには迷惑をかけっぱなしだ。八年前のあの日―――俺は『反転』してソイツを殺しちまった」

 四季は苦笑しながら、「ここを貫いてな」といって自分の胸―――心臓のある場所辺りを軽く叩いて見せた。

 「だが、アイツは奇跡的にも一命を取り留めた。それから八年間、ソイツは俺の代わりとして『遠野』を名乗らされた。記憶も暗示で封じて、あたかも自分が『遠野シキ』であるように思い込まされてな。一方、俺は座敷牢に入れられた。まぁ、反転しちまったんだから、本来なら殺されて当然だったんだが、俺の親父がそうはしなかった。それから八年、反転していた俺の意識は徐々に、ロアの野郎に食われていき、ロアは弟に殺されて、結果として、反転していない俺の意識が残った。本当に、アイツにはいくら感謝しても足りねェよ」
 「いい、親友なのですね」
 「ああ、最高のダチだ。これ以上に無いくらいにな」

 そう言って、四季はニヤリと笑みを浮かべて肯定する。事実、四季にとて、彼―――遠野志貴はこれ以上に無い親友だ。それは、これから先もきっと変わることのない事実だと、四季自身も思っている。

 「それにしても…何故、その話を私達に?」
 「なに、単なる気まぐれだ。あんまりにも暇なんでな」

 苦笑しながら、四季は床の上にごろんと横になった。本当に、単なる気まぐれでもあるが、ある意味ではセイバーへの「友人は大切にしろ」という忠告なのだろう。
 台所の方から、いい匂いが漂ってくる。今日の昼飯は期待できそうだと、そんな事をぼんやりと考えながら、四季は眠りに落ちていった。









 昼食を一通り食べた終えて、お互いの現状を話して、セシルは深いため息をついていた。

 「まさか、リッパーがセイバー達を狙ってるなんて…酷い偶然」

 ばつが悪そうに呟きながら、セシルは顔を隠すように手で押さえた。
 嫌な依頼が原因で、最も会いたかった人物に会うとは、世の中皮肉なものである。

 「それにしても、連中の目的は不老不死の研究、その完成と見て間違いない…か。なんだか、話が大きくなってきちゃったなぁ」

 もしかしたら、ナルバレックはこの事を知っていてあえて黙っていたのかもしれないと考えて、ありえる話だと、セシルは思った。
 ふつふつと怒りが湧いてくるが、もうこの際ここで怒ったってしょうがないのでとりあえず、その事は頭から締め出した。

 「あの、セシル大丈夫ですか?」
 「うん、大丈夫。ちょっとウチの上司を一発ぶん殴って味噌漬にしたい衝動に駆られただけだから」

 セイバーの言葉に、セシルは笑顔で答えてはいたが、そこはかとなく怒りが滲み出しててフィネアを怖がらせてしまっていたり。なにげに、その台詞も内容も物騒だったりもする。

 「私も、セイバー達を手伝いたい。そりゃ、私は足手まといになるかもしれないけど、今は少しでも―――セイバーの傍にいたい」
 「えぇ、私も貴女が居てくれると心強い。セシル、私からもシロウやリンに頼んでみます」
 「ありがとう、セイバー」

 笑顔で言葉を交え、談笑している二人を、フィネアはずっと傍らで見続けていた。
 羨ましいと、素直にそう思った。仲良く談笑するトモダチ。そのトモダチすら、フィネアには居なかった。居たのは、自分と同じ姿をした、自分でもあるナニカ。ソレは、自分とはナニカが違う自分であって、トモダチにはなりえなかった。
 もとより、閉鎖された空間の中で、病的に、無機質な場所以外のトコロを彼女は知らなかった。
 世界がこんなにも広いとは知らなかった。世界がこんなにも眩しいとは知らなかった。人との関わりが、こんなにも尊いものだとは思わなかった。すべては、ここに来て学んだ。ここの住人が教えてくれた。
 衛宮士郎からは『優しさ』を、遠坂凛からは『厳しさ』を、セイバーからは『静寂』を、間桐桜からは『儚さ』を。藤村大河からは『朗らかさ』を。そして―――遠野四季からは『思慮深さ』を。
 どれも、フィネアの中ではかけがえの無いものだった。ここにいることは、とても楽しい。ここの住人のことも好きだし、ずっとそばにいたいと思う自分が居ることも気付いている。ただ、彼らと一緒に居る事を望むのは、自分のわがままでしかないのだろうかと、フィネアは思った。

 「どうしたのフィネアちゃん?」
 「ううん、なんでもない」

 作り笑いを浮かべて、フィネアはそう言葉を紡いだ。
 今は、自分が二人の間に立ち入るべきではないと、自然とそう思えてしまっていた。そんなことよりも、会って間もないセシルに自分の心境を悟られたことの方が恥ずかしいと思った。

 「む、悩みがあるなら言わないと駄目よ。もう私と貴女はともだちなんだからね!」
 「トモダチ?」
 「そうよ!悩みがあるのに、それを言わないで溜めていくと自滅しちゃうんだから!」

 そう言って、彼女はにっこりと笑みを浮かべている。ソレがとても楽しそうで、自然とフィネアにも笑みが浮かんだ。

 「うん。でももう大丈夫だよ」
 「ウム。ソレならばよし」

 うんうんと頷き、セシルはフィネアの頭を撫でた。もともとフィネア自体が見た目が幼い感じがあるため、傍目から見ると姉と妹というふうにも見えなくも無かった。
 その様子を、四季がぼんやりとした様子で眺めている。ふぁぁ〜っと欠伸をして、目の前の女子三人のじゃれあいを気だるそうに見ていた。実際、四季の話し相手といえば凛や士郎だった。大抵は魔術関係の話ではあるが、普段の日常会話もそれなりにまじえていた。それになんというか、今の3人の間には入りづらいものがあって、口をはさめないでいるのが現状だ。
 ハッキシ言ってしまえば…この上なく暇だった。
 そんなわけで、彼は一人でセシルの作った料理を口に運んでいる。
 彼女が作ったのは日本食だ。白いご飯に味噌汁。秋刀魚の塩焼きに肉じゃがだ。それもこれも、良く味が染みていて、この家の家主である衛宮士郎にも負けず劣らずの出来であった。

 「それにしても、セシルは随分と日本語上手ですね、それに先ほど作った料理も日本料理ですし…一体どこで?」
 「あぁ、私ね四百年ぐらい前から日本にすんでるんだ。それで自然とね」

 苦笑しながら答えて、彼女はゆっくりと立ち上がって、食べ終わっている分の食器を持った。

 「コレ、洗ってくるよ。四季、それちゃんともってきてよ」
 「へいへい。わかったよ」

 そう答えながら、四季はテレビをつけてソレに視線を移した。どうやら、四季も四季で、彼の弟と同じく女難の相でもあるのかもしれない。


 







 日がだいぶ傾いた頃、士郎と凛は帰路ついていた。
 赤い夕焼けがゆらゆらと空にゆれ、その世界の中に二人がいる。

 「気付いてる、士郎?」
 「あぁ、結界だな」

 そう言葉をかけると同時に、二人は油断せずに目の前を見据えた。
 辺りは人の気配が酷く希薄だ。いや、ないといっても過言ではないだろう。
 そんな中で、二人以外にもう一人の人物が士郎達の目の前に立っている。

 「こんにちわ。以前、私の知り合いがお世話になったから…挨拶に来た」

 静かな声で、女性が士郎達に歩み寄る。声には何の感情も篭らない。その視線も、無感情…というよりも、どこか生きる事を放棄したかのような虚ろな瞳だった。
 ドクンと、士郎の心臓が鳴る。全身に寒気を感じて、その女性の姿を凝視した。
 姿も違う。声も違う。だというのに―――その女性とアーチャーの姿がダブって見えた。

 「なんのようだ」
 「だから、さっきも言った。挨拶だって」

 士郎の言葉に、女性は平然と答えて一本の騎士剣を取り出す。
 凛はいくつかの宝石を取り出し、士郎は干将・莫耶を投影する。その様子を、女性はただ無感動な虚ろの目で見ている。

 「こんなところで騒ぎを起こすなんて正気?」
 「人払いの結界も防音の結界も張ってある。いくら騒いでも誰も来ない。…それに、今日は実力を見たいだけだから。リッパーを退けたのは君だよね、衛宮士郎君」

 ゾクリと、鋭利なナイフで貫かれたかのような悪寒。二人を襲ったのはソレだ。
 女性の表情に変化はない。ただ、その手の騎士剣を構えた。

 「いくよ。大丈夫、殺したりしないから」

 その言葉とともに、女性が駆けた!
 間髪いれずに、凛のガンドの乱れ撃ちが女性を狙い撃った!
 だが、その呪いの嵐の中、女性は怯みもせずに、真っ直ぐに士郎に突進した。あるものは身を翻し、あるものはわずかに体をずらし、あるものは手にした剣で切り裂いて、士郎に向かって剣を振り下ろす。
 ギィンと言う、甲高い音がする。士郎は女性の一撃を干将・莫耶で受け止めていた。その細腕からは想像もできないほど、女性の一撃は重い。どちらか片方だけで受け止めていれば、士郎は剣ごと両断されていただろう。
 士郎の顔に浮かぶのは、苦悶の表情。こうも密着した状態では、凛の狙いの甘い魔術では援護ができない。
 鍔迫り合い…というには、あまりにも士郎は力負けしていた。ぎちぎちと音が鳴り、ソレと同時に士郎の腕も悲鳴を上げた。

 「私だけ名前を知ってるのも不公平ね。私はラミアよ。ラミア・ルヴィート、覚えておいて」

 女性がそう名乗ったと同時に、どんっという衝撃と共に士郎は腹部に重い痛みを感じた。次に彼の視線に映ったのは赤く焼けた空だった。そこで、士郎ははじめて蹴り飛ばされて宙を舞っているのだと理解した。
 ドサリと、士郎は背中から道路に叩きつけられ、小さくうめいて身を起こそうとする。

 「士郎!!」

 凛の悲痛な声が聞こえてくる。士郎の傍に駆け寄った凛は、殺意をはらんで女性を睨み付けた。
 その視線を浴びて、一瞬―――女性の表情がわずかに変化して、再び能面に戻った。一瞬、ほんの一瞬だけ―――女性の顔が悲しそうにしていたのだ。

 「士郎!大丈夫!?」
 「大丈夫だ遠坂。まだやれるよ」
 「アンタ!今さっき自分がどれだけとんだかわかってるの!?」

 凛が士郎に怒鳴りつけるが、彼はソレを無視して立ち上がり、再び干将・莫耶を投影した。

 「どうして、そこまでするの?見ず知らずの他人のために。君には手を引いて欲しい。無関係の人間を巻き込むのは、あまり好きじゃないから」
 「うるさい!」

 苛立たしげに叫んで、士郎はラミアを睨みつける。

 「困っている人を助けるのが俺の道だ!どういわれようと変えられない!!」
 「その結果、自分が死ぬかもしれないとしても?」
 「そうだ!!」

 迷いも無く、士郎は言い切った。干将・莫耶を構え、ラミアに視線を向ける。
 赤い背中。エミヤシロウの理想は幻だと言った英霊エミヤ。彼と戦い、それでも自分は理想を貫くとアーチャーに言った。
 変えられない。例え幻でも、追い続けるのだと、衛宮士郎のその目は語っている。

 「まるで…正義の味方ね」

 ポツリと呟いたラミアの言葉。一瞬だけ目を伏せて…次に目を向けたときには、殺意の篭った瞳が士郎を射抜いていた。
 ソレだけで―――体のありとあらゆる機能が停止した。
 まるで自分の体が、別人の体であるかのように動かない。呼吸することもままならず、歯の根がかみ合わない。がちがちと歯が鳴って、士郎はソレが自分のものだと気付くのにしばらくの時間を要した。
 感覚としては―――バーサーカーを始めてみたあの日の夜に近いものがあった。

 「うん。気が変わった。やっぱり君は殺しちゃうね」

 まるで買い物に行ってくるかのような気軽さで、ラミアは言い放った。言葉に感情は篭っていない。ただその瞳が、その真紅の瞳が―――『殺す』と語っていた。
 ゆっくりと、彼女は歩み寄ってくる。凛はガンドを撃つことも忘れて、立ち尽くしている。
 セイバーほどではない。その速度は彼女に勝るとも劣らないが、剣術という面で見るならセイバーの方が上だ。対魔力だなんてもってのほかだ。彼女の対魔力はそれほど高くないはずだった。加えて、二対一という、絶対的に有利であるはずの状態なのにも関わらず―――勝てないと、凛は本能で悟った。彼女はまだ魔術を一度たりとも行使していないのだ。何かを隠して、あまつさえこの実力だ。
 足音が近づいてくる。ソレはまるで死へのカウントダウンのようにも思えた。

 「遠坂凛ちゃんだね。そこ…あぶないよ」

 鈴の音のような声。とても綺麗な声だと言うのに、その言葉の一つ一つが凶悪な武器のようだった。
 それでも、凛は視線をそらさない。そらしてはいけないと理解しているし、彼女の言葉に屈することもしない。それが、魔術師としての遠坂凛をあらわしているかのようでもあった。

 「冗談、自分の弟子を置いて逃げるようなことなんてしないわよ。あなたをこそ、無関係の人間を巻き込みたくなかったんじゃなかったわけ!?」
 「そうだね。でもね、正義の味方は別。理想を追い求めて…いつか、いろんなものを巻き込んで自滅しちゃうから」

 「滑稽でしょ?」と呟いて、彼女は自分の間合いに二人をおさめた。その騎士剣は、ただ鈍い光を携えて二人の顔を映しこんでいる。

 「アンタ…まさか」

 凛のかすれた言葉。それに関心すら抱かず、彼女は―――本当に悲しそうな顔をして「ごめんね」と呟いていた。
 その剣が振り下ろされる。それはまさしく、二人にとっては死を与える刃となる―――そのはずであった。
 ギィンという甲高い音と共に、その一撃を士郎が干将・莫耶で受け止めていた。ソレを弾き返し、畳み掛けるようにラミアに駆けた。その動きは、先ほどのものと違っていた。その動きは、まさしくアーチャーの動きそのモノであった。
 士郎の動きが急に変わり、ラミアは一瞬と惑ったがすぐに体勢を立て直して切り結んだ。
 火花が散る。鉄と鉄が打ち合う音がして、辺りは一瞬にして剣戟音に包まれた。
 何十、何百と響くその旋律は、終わりの無い演奏のようでもあった。
 投影した干将・莫耶が砕かれると、再び干将・莫耶を構えて切り結ぶ。士郎は当に限界だった。その身の動きは、まだ今の士郎には絶えられない。それでも動きを止めない。ただその夫婦剣をひたすらに打ち続けている。それは、ここで引けば負けると無意識に認めていたのかもしれなかった。

 「おぉぉぉぉおおおおおおお!!!」

 もっと早く。アイツより早く。攻撃させる暇を与えるな!
 筋肉が悲鳴をあげる。細胞の一つ一つが、お前は当に限界なのだと告げている。それでも、士郎は止まらない。その裂帛の意思のみで、士郎は干将・莫耶を振るい続けている。
 不意に、ラミアの左手が上がった。そこには、何も無い。剣は士郎の干将を受け止めている。そう、何も無いはずなのに―――シヌと…士郎は感じた。それは単なる直感だ。気のせいといえばそうかもしれない。だが、士郎が回避するよりも早く、その左腕が振り下ろされた。士郎が莫耶でソレを防ごうとして―――莫耶ごと、士郎は肩口を彼女の左手に生み出されたナニカで切り裂かれていた。

 「あ…がっ!?」

 鮮血が上がる。ラミアの騎士剣が干将を弾いて、士郎は凛の立っていたところまで吹き飛ばされた。
 ラミアの左腕には―――黒い短剣のようなものが握られていた。それは、確かな形を持っているわけでもない。ただ、適切な表現がそれだけしかなかっただけのこと。あえていうならば、それは黒い霧が密集して短剣の形を作っているとでもいうのだろう。
 それが、彼女の魔術であることは凛にも理解できた。ただ、ソレの正体がわからない。ただの闇であるなら切れるはずが無い。士郎がこうして傷つくなどしなかったはずだ。
 なら、あれは一体なんだ?先ほどから口うるさく、魔術師としての自分の思考が問うて来る。

 「なんなのよ…それ」
 「そうだね。『虚無』っていえばわかるのかな。何も存在できず、ただ何も無い、あることの出来ないモノ。私はソレを形にすることが出来るの。もっとも、ここじゃこれが限界だけどね」

 無茶苦茶だ。凛はそう思って、敵意の眼差しをラミアに向ける。
 そんな反則的な魔術、ようするにそれは、それでナイフを形作るなら、魔術的な要因も物理的な要因も、一方的に無視して対象を切り裂くことが出来る。
 デタラメだ。この魔術において、防御など無意味。避けるほか無いのだ。
 左手に生み出されていた『虚無』のナイフが消える。士郎は生きてはいるが、放っておけばいずれ死に至るほどの傷が出来ている。
 勝算は無くなった。宝石を使おうとしても、その前に彼女に切り伏せられる。

 「さようなら。正義の味方。そんなもの、世界にいちゃいけないんだよ」
 「…ざ、けるな!」

 士郎は立ち上がる。その目にしっかりとした意識をもって、目の前の『敵』を睨みつけている。次に士郎が投影したのはゲイボルク。真紅の魔槍が姿を現すのと同時に、士郎の体に激痛が走る。分不相応な投影の代償。魔術回路が焼ききれそうになりながらも、それは形を成そうと密集していく。

 「―――――――ッ!!!??」
 「士郎!無茶よ、止めなさい!!」

 凛の言葉も、士郎には届かない。血は今もどくどくと流れ、士郎の体もとうに限界のはずだった。それでも、士郎の目だけは死んでいなかった。
 言葉無き慟哭が木霊する。細胞の一つ一つが、内臓の一つ一つが、脳髄から全身に行き渡る悲鳴を無視して、真紅の魔槍は形を成した。
 衛宮切嗣という、魔術師が居た。彼は犠牲が大きくなる前に、百人のうち一人を斬り捨てる正義の味方だった。アーチャー…「エミヤ」と呼ばれる英霊が居た。愚直に、ただ人を救い、人々から裏切られ、最後には世界からすらも裏切られた正義の味方。
 衛宮切嗣は、エミヤシロウの憧れだった。彼の目標でもあり、尊敬する人物だった。アーチャーは衛宮士郎自身の一つの末路だった。自身を殺そうとしてきたものの、それでも彼は正義の味方を貫き通した。
 ラミアの言葉は、彼らの存在を、彼らの生涯を完全に否定する言葉だった。それが士郎には許せない。

 「誰かの笑顔を守りたいと思うのがいけないことなのか!誰かを救いたいと思うことがそんなにいけないことかよ!!」

 ゲイボルクを構える。その真紅の魔槍が、禍々しい光を帯びて脈動する。
 その姿―――その表情、その雰囲気―――どれをとっても、あの蒼い槍兵の姿に酷似していた。
 その武器の担い手の動きを模倣する。それが、士郎の投影のもうひとつの側面ともいえた。

 「それが―――偽善だというのよ!」

 初めて―――女性が言葉に感情を篭らせた。キッと士郎をにらみつけて、騎士剣を構える。
 もう話すことは無いといわんばかりに、その表情には怒りの形相をあらわにして。
 ラミアが疾走する。片手に騎士剣を携え、身を低くして向かってくる。ソレは、例えるならば弾丸のようだった。

 「―――刺し穿つ(ゲイ)―――」

 士郎が紡ぐ。ソレだけで大気中のマナが凍っていく。凛の感じた悪寒は背筋を駆け上り、脳髄を犯した。
 その真紅の槍は必殺。因果の逆転を促し、『心臓を必ず貫いている』という事実を確立させる魔槍。
 故にソレは必殺。かの英雄、クー・フーリンが愛用した宝具。
 ソレが走れば死ぬと、ラミアも理解した。ソレは直感といってもいい。あの槍がはしれば死ぬと、当たり前のように理解できた。
 だが、それでも―――

 「―――死棘の槍(ボルク)―――!!」

 ―――士郎が真名を口にする方が、わずかに早かった!
 槍が赤い閃光となって伸びる。もちろん、それはかのランサーには遠く及ばないスピードであったが、構えや動きは彼そのモノだった。
 赤い槍は一直線に心臓に伸びていく。舌打ちしながら、ラミアは手にした剣で弾こうとしたが、パリィィンという、ガラスが砕けるようなをとを立てて騎士剣が砕け散った。
 ソレで全てが決まったはずだった。避けることなど出来るはずも無い。だというのに、彼女は運動法則を無視するように後ろへ跳んだ。
 左手に黒い虚無のナイフを生み出して、今度はそれで赤い閃光を迎撃した!
 パキィィィィンと、甲高い音が響く。その音と同時に、士郎が生み出した幻想は、彼女の生み出した虚無で完全に消滅させられていた。
 間合いが離れる。わずか一瞬の攻防は、お互いの命を刈り取ることが出来ないまま終わりを告げた。左手に生み出していた虚無が消えて、ラミアは方膝をついて息を荒くし、肩で息をしていた。
 おそらく、魔力の消費が半端ではないのだろう。わずか二回の力の行使で、ああも疲弊している。
 士郎はまだ立っている。体は当に限界。明らかに死に体のその身を精神力だけで動かしている。

 「こっちは武器も無くなった…か。これ以上やりあうのは不利だね」

 そうラミアが呟いた瞬間、彼女の姿が虚空に溶けるように消えていく。

 「さようなら。衛宮士郎、遠坂凛。次に会うときは―――確実に殺してあげるから」

 「楽しみに待っててね」と、再び感情の篭らない声で口にした彼女は完全に姿を消した。
 ソレを見届けた士郎は、ドサリと倒れてそれっきり動かなくなった。
 意識は泥の中に沈んでいき、体の感覚も消えていく。そんな中、「士郎!士郎―――!!」と叫ぶ声を、ぼんやりとした頭で聞いていた。
 














 「正義の味方なんだって」

 唐突に紡がれた言葉に、リッパーは「はぁ?」と声を上げてソファーに腰掛けているラミアに目をやった。
 その表情は相変わらずの無表情だったが、なつかしんでいるような…そんな雰囲気は伝わってきた。

 「あの赤毛の男の子。自分が死ぬかもしれなくても困ってる人を助けるんだって言ってた」
 「ふ〜ん。そんなこといったのかあの坊主。まるで昔のお前だな」
 「でしょ?」

 リッパーの感想に、ラミアはクスリと苦笑して天井を仰いだ。

 「だから、殺そうと思っちゃった」
 「あん?らしくねぇな、ラミア」

 あぁ、まったく持ってその通りだと、ラミア自身も思っている。いつもの無表情に戻った彼女は、ソファーに横になった。

 「正義の味方なんて、ただ裏切られて、利用されるだけのものなのに」

 ポツリと呟いて、ぼんやりとした目をリッパーに向けた。
 リッパーはリッパーで、あちこち動き回って忙しそうだが、手伝う気はあまりおきない。そもそも、彼が拠点に選んだ場所はどうも胡散臭い。
 広大な森の中に立っていた古い城。そもそも、日本の森の中に何故このような場所があるのか自体疑問だったのだが、アインツベルンの城と聞いて大方、聖杯戦争のための場所だと納得した。
 リッパーが一人で大掛かりな改装を施し、廃墟同然だったこの場所をなんとか住めるレベルにまで復元されていた。視線を変えれば、子供の人形と思われるウサギだとかクマのぬいぐるみが目に映る。この部屋の主は少女だったのだろうと思考を巡らせた。

 「あたし、疲れてるから寝る」

 彼女の魔術は燃費が悪い。強力な分、魔力の消費も馬鹿にならない。そのせいか、今彼女はものすごく眠そうにしていた。

 「お、おい手伝えよ!?」
 「やだ」

 キッパリ一言で斬って捨てて、ラミアはベットに向かって歩き、そのまま倒れこむようにベットに寝転がった。ごろんと仰向けになり、しばらく無機質な天井を眺めているとリッパーの顔が飛び込んできた。
 ギシッと、ベットが軋む。

 「何?」
 「疲れたんでご褒美もらおうかと思ってね」

 リッパーの手が、ラミアの体に触れる。それでも、彼女の無機質な表情は変わらない。
 ただつまらなそうに目を細めるだけで、それ以上の抵抗も無かった。

 「聖職者のくせに」
 「元だ。今はもう違うからな」

 まるで言い訳のような言葉を聞きながら、ラミアは静かに目を閉じた。
 赤い髪の少年、衛宮士郎の事を考えながら、彼女は長い夜に堕ちていった。








 ゆっくりと、士郎は目を開けた。辺りはすっかり暗くなり、自分の部屋に居ることに気付くのにしばらくかかってしまった。
 唐突に、部屋の明かりがつく。誰かが部屋の中に入ってきたのだと理解して、士郎はそこに視線を向けた。
 そこに、遠坂凛がいた。不機嫌そうな顔をして、づかづかと士郎が横になっている布団の傍に座る。

 「えっと…遠坂?」
 「ようやくお目覚めね」

 途端にっこりと笑顔を浮かべる凛。んでもって、その不吉な笑みを見て冷や汗をだらだらと流す士郎。
 凛の笑みが、今の士郎には不動明王に見えてならない。どす黒いオーラが背中から滲み出しているようにも見えたり見えなかったり。

 「よくもあんな無茶してくれたわね?あんな怪我してるのにゲイボルクの投影なんて何を考えてるのかしら衛宮君ってば」

 ズゴゴゴゴと、背後に擬音が飛び出していそうな錯覚と、なんだか英霊にも素手でうち勝ちそうな迫力で、あまつさえ最近呼ばなくなった名字の方で君付けしていたり。
 完璧に、士郎は蛇ににらまれた蛙状態で両手を挙げて降参のポーズを取っていた。

 「スミマセンデシタ」
 「…はぁ。もう、いいわ。アンタの無茶はいつものことだし、これからは気をつけなさいよ」

 もう諦めたように呟く凛。
 彼女はため息を一つつくと、士郎に視線を向けた。

 「傷の方は大丈夫?」
 「あぁ、痛みも無いよ。ありがとう遠坂」

 凛の言葉に、士郎は感謝の言葉を漏らすが、凛は苦笑して首を振った。

 「私じゃないわ。傷の手当てをしたのは四季と、セシルよ」

 彼女の言葉から聞き覚えのない名前を聞き、士郎は首をかしげた。

 「セイバーの生前の友人みたい。今、離れの方で休んでるから、明日ちゃんとお礼をいっておきなさい」
 「あぁ」

 そう言って、士郎は天井を見上げた。
 内心、士郎は悔しかった。負けたのだと、士郎自身は思っている。彼女―――どこかアーチャーとダブって見える、ラミアという女性に、衛宮士郎は負けたのだと。

 「負けたんだな、俺」
 「ソレは違うわ士郎。痛みわけ…相打ちよ。まだあなたは負けたわけじゃないわ」

 凛の手が、士郎の頬に触れた。ひんやりとした手が、今の士郎にはとても心地が良かった。

 「今は眠りなさい、士郎。ゆっくり休んで」

 その声を聞いて、士郎は死んだように眠りにつく。その吐息を聞きながら、凛は心配そうな目で彼を見て、それから自室へと戻っていった。
 もうすぐ…夜が明けようとしていた―――


















 後書き

 修正修正修正だー!!
 はいスンマセン緋琴ッス。
 いろいろとおかしいところがあったのでその修正。
 これで良くなってればいいのですが―…良くなってんのかなこれ?
 キャラの個性が薄い、とのことだったのですが……うーむ、文章で個性だすの難しいんだなぁと改めて痛感。もっともっとがんばりたいです^^;
 とりあえず、未熟ながら戦闘描写はがんばったつもりです。
 それではこのへんで〜





管理人の感想

 修正された第四話をアップしました。
 ふむ、セシルさんの描写がだいぶ増えていますね。セイバー以外の他のキャラと絡ませたりすることでキャラが掴みやすくなったのではと思います。
 対して、ラミアさんは印象的にあんまり変わっていないかな、という感じです。ただ彼女に関しては謎めいた部分を含ませておくのも良いと思いますので、特に問題はないのかな。

 あとは各オリキャラさんたちが背負っている過去だとか、悩みだとか、そういったものがこれから語られていくことと思います。
 こちらはキャラクターの性格よりも更に重要な意味を持ちますので、頑張ってくださいませ。


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